淘汰の国のアリス | ナノ

「チェシャ猫さんはいつもどうりだったわ。」
「…ナターシャ公爵夫人は?」
シフォンが静かに尋ねた。なぜか名前まで口に出して。もはや言い訳するにもかえって見透かされそうなほどアリスは悲しみを隠しきれていなかった。彼ならすぐに感ずいてしまうだろう。

「公爵夫人はね…死んじゃったの。」
その場にいた全員がわずか一瞬、そのまま固まってアリスの方を見返した。すぐに口を開いたのはレイチェルだった。

「…は?おいおい冗談はよせよ…」
レイチェルはあたかも信じられないといわんばかりに大袈裟な身振りをする。顔は笑っている。勿論、見ている方は誰しもその表情がつくりものだとすぐにわかったが。
「…本当なのね…」
フランネルはそう聞くがなんだか事実を決めつけているようにも聞こえた。
「…ええ。」
「じゃ、じゃあなんで!」
レイチェルはとうとう強ばった顔になり、アリスに詰め寄る。
「なんで夫人は死んだんだよ!!」
「レイチェル!」
少し離れたところから咎める声がする。その声の主のシフォンだった。腕を組んで下をうつ向いており帽子の鍔から覗く目には言葉に出さなくても十分力があった。おそらく、ゲームからそんなに時間が経ってないからか彼なりの配慮だろう。レイチェルは高ぶる感情で頭がいっぱいだったため制止の声が届くわけがなく。アリスは更に圧倒され恐々と吐いた。

「…女王の命令で…ここに連れてこられて…そして処刑されたの…理由は、わからない…」
「…なッ!?」
驚愕に、それからだんだん怒りに、瞳孔が小さくなる。
「なんなんだよソレ!!夫人が女王に殺されるようなことをしたってのか!?」
「わからないわよ!!!」
レイチェルに言葉を選んで欲しいと内心思いながら、我慢ならずアリスは大きな声をあげた。わからない、誰にもわからない。その言葉には「黙って」という気持ちも込めた。現実から逃げているわけではない、わかっていることを何度も言われるのはいい気がしない。悲劇なら尚更だ。さすがのレイチェルも相手の必死な様子に黙りこむ。

「…わからない…そんなの、誰にもわからないわ。だからね、私は聞こうと思うの。夫人がなんで亡くなったか…知っておくべきだと思う」
シフォンが顔をあげる。
「アリス。別に無理をする必要はない」
「帽子屋さん…」
アリスはしばらく豆鉄砲を喰らった鳩のような表情で彼を見つめるもすぐさま真剣な顔つきになる。
「ありがとう。私は大丈夫よ、大丈夫だから。」
相手にまた余計なことを言わないように二度押して言った。シフォンは「全ての真実を知るのは残酷」だと言いたいのかもしれない。直感にしか過ぎないがアリスはそう感じた。だからこそこっちの心の強さを見せつけることで相手を安心させようと手に出たのだ。

「…そうかい。君がそこまで言うなら大丈夫なんだろう」
予想通り、シフォンはそれ以上何も言わなかった。レイチェルはまだ冷静を保ててはいないようだが周りに合わせてようやく黙っているみたいだ。



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