淘汰の国のアリス | ナノ

「どうしたんだいアリス。随分と気が沈んでいるようだが…何かあったのかな?」
シフォンはあえて穏やかで紳士的な鷹葉とした態度で彼女を取り乱さないように細心の配慮を行った。
「…ちょっと、ね」
アリスは言葉を濁す。こんな事言っていいのだろうか。言う必要があるのだろうか。アリスは悩んでいた。当然、この国の1人が今いる場所の主に 知らないうちに殺されたった今その葬儀に参列出来ずにただ傍観していただけだなんて、この部屋にいる誰が予想するだろう。ましてやその殺された人物が公爵夫人…ナターシャだったなんて。

あの後、結局何の罪で処刑されたかはシグルドも知らなかったので誰にも聞く事は出来なかった。アリスは出来れば聞きたくはないが、やはりシグルドやチェシャ猫らをはじめとした人物らには真実を知る権利がある。
ここはアリスがチャンスを見つけてどうにかして聞き出し、彼らになんらかの手段で伝えようと考えていた。

でもシフォンやレイチェル、フランネルもこの国の住人達ではないか。自分が本当は知っていた事をわざわざ隠して、アリスがいなくなれば関係ないのだが後で真実を知らなかった彼らはその時にはもう手遅れだ。責任感というより後味が悪すぎる。どうせなら皆にはっきり伝えておこう。アリスは重い口を開いた。

「…私、夫人の家に行ってきたの。」
「へー!チェシャ猫は相変わらず元気にしてたか?」
レイチェルは夫人よりそのペットの様子を尋ねた。同じ動物同士か、あの時はたまたまあんな風になったがその表情からは仲が良いとうかがえる。フランネルは近くにさえいなければまるで他人事のようだ。
「なんというかいつも通りだったわ」
「へーそうかい」
きっとレイチェルの脳内にはいつもの和やかな光景が浮かんだに違いない。アリスの脳裏にあるのはずっと無表情なまま夫人の死を遠くから眺めるチェシャ猫だった。しかしアリスがそれを「不謹慎」だの「冷たい」だの言わなかったのはそれさえが不謹慎だと思ったのと、無表情の裏の感情に気づいてしまったからだ。





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