淘汰の国のアリス | ナノ

アリスのいた世界ではまず、ペットの類は一時的に誰かに面倒を見て貰っていた。動物に何も感情や意思がないとは言わないが、より高度な意思を持った彼らは状況をしっかりと理解できているだろう。だから自ら場所を離れるのはどこかで覚えた一般的な常識を視認した上での行動か、単なる配慮なのか。その話で言うならシグルドはもろ「部外者」である。
「夫人殿は遺言を残していた。葬儀の際は身内だけで行ってほしいと。そういう意味でも私達は参加する事はできない。」
公爵夫人は一体どんな気持ちで筆を手に取り執筆したのだろうかを深く考えると何故か悲しくなってきた。

「私はもうすぐしたらお城に戻らなくてはいけないの。だから、私からは何もしてあげられないのね…」
「……アリス」
物悲しげなアリスの名前を他の誰でもないシグルドが呼び捨てにした。少し驚いて顔を上げる。再び続けた。

「物騒な事は多々ありつつも、この国は平和を保っていた。大きな争いも天変地異といえる物もなかった。私は常に、その平和が永遠に続けばいいと思っていた。」
「………テンペンチイ?」
猫には少々難しい単語だが話している相手はあくまでアリスなので彼女が理解していれば十分だった。

「…最近嫌な予感がしたんだがな。なあ、アリス。確かに世界規模で平和ならそうなのだろうな。…だが、私は…身近な者を理不尽な都合で殺される世界を平和と言いたくはないんだ。」

「虫さん…」
シグルドの話していることは難しく聞こえるだけで決して難解な話ではない。アリスが住んでいた世界も、実際自分が関わったことがないだけで物騒な事件はテレビ越しで伝わってくる。もしも自分の身の回りの誰かがそんな目にあったらと考えてみても想像がつかない。共感しきれない分下手に同情しない方がいいとアリスは何も返さなかった。いや、返せなかった。





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