淘汰の国のアリス | ナノ

ゆらゆらと揺れる尻尾、少し動く度に可憐な音を鳴らす鈴、軽い猫背、いつもと変わらないはずなのにもっとも印象深い猫目も笑ってない。無邪気な笑顔もなかった。ただただ目の前の光景をさながら他人事のようにぼーっと眺めていた。

「今日は随分オシャレな格好してるのね。被り物がないから気づかなかったわ。」
「オシャレ…?」
言葉の意味を知らなかったのか不思議そうに聞き返すチェシャ猫に対し、アリスは普段何気なく使っている単語をどう説明していいか悩んだ挙げ句話を逸らすことにした。
「あの蛙執事さんもいるかしら」
「そりゃあもちろん」
しばらくためてから続ける。

「今日は召し使い総出だからね」
「凄い人だと思ったわ。」
引っ切りなしに列が屋敷に入っていく。果たして全ての人が収まりきるのは可能なんだろうか。まだ向こうにも列は続いていた。

「…なんだろう。みんな、俯いてたり泣いてたりしているわ。一体何があったの…?」
誰に聞こうとしたわけではなく、自分に問い掛けた。しかし答なんか出るわけがなく、またもや尋ねられたと勘違いしたチェシャ猫が答える。実際彼女がついさっき来たばかりで何も知らないのは承知であり、そもそもチェシャ猫が苛立ちを覚えることはまず滅多にないのだった。

もちろん、猫に器用な遠慮はない。

「夫人はね………死んだんだよ」
「……………え?」

アリスは何を言われたかさっぱりな様子でチェシャ猫を見上げる。当のチェシャ猫は彼女が「信じられない」ではなく「聞こえなかった」ととらえはっきりと復唱した。

「夫人はね、死んだんだよ。」
アリスは不自然でぎこちない笑顔を浮かべる。
「…な、何を言っているの?」
「何ってだから…夫人は死んだ」
「やめてッ!!」
そう叫んではとっさに耳を覆った。完全に塞いではいないので耳と手の平には隙間がある。聞きたくないけど聞きたい、アリスは微かに震えていた。





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