「わっ、ちょっと!いきなり馴れ馴れしいんではなくて!?」
乱れた髪を直しながら不機嫌そうに言うアリスを不思議そうに見ながら
「いいことじゃないか?第一印象が大事じゃん!」
と当たり前かのように言い放ったものだから「随分礼儀のない人!」と思わず聞こえるよう呟いてしまった。だが相変わらず改める様子もない。それを見てアリスは更にしかめっつらになる。
「いやぁ…野良ネズミに礼儀を求めてられてもなぁ…」
「…ッ、…確かにそうね」
一瞬言葉に詰まる。言われてみれば野生の動物に「お手」、などの芸を求めても理解するわけでもなくそもそもネズミを飼ったことがない。紛らわしい姿をしているものの普通に考えたら家をちょこまか走り回るネズミと同じなのだからこうやたて会話が成立すること自体奇跡なのだ。
アリスは、家の中を走り回るネズミでそれを追いかける愛猫のことも思い出した。
「…私のペットもね、おとなしいけど礼儀正しいとは言えないわね。」
「アリスって何か飼ってんの?」
野良が食いつくような話でもないと思うのだが。
「ええ。丸いものを見たらすぐじゃれるから毛糸だってすぐむちゃくちゃにしちゃうの。そういう時は「めっ」て叱ってやるのよ。」
「丸いものねえ…」
「そういう時は庭の猫じゃらしをあげるの!」
アリスは自慢の猫の話に一人盛り上がっている。だがマーシュの顔はひきつっていた。
「…おま…それ…」
「ご飯はね、ちょっと高級のキャットフードをあげてるの、ふふふ。でもね聞いてよ!キティ…あ、子供の方は食べてくれないのよ!」
「……あの、もしかして…」
「私達が食べているご飯を欲しそうに見つめちゃうの!酷い時はね、ネズミをひっつかまえてくるからびっくりしちゃう!」
マーシュが少しずつ後退りしているのにも自慢話に夢中で全く気づいていない。
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