「三月さ…」
「ははっ、何とかなるって!」
思わず心配になり声をかける。アリスがどういった心境で名前を呼んでいるかはわかっている。振り向いたレイチェルは見ている人まで微笑んでしまうぐらいの、明るい笑顔。だがあくまでそれは比喩。今はきっと笑っていられる余裕なんてないのもアリスはわかっている。
―信じたいけど、信じてはいけない。信じるだけじゃあいけない―
そう心の中で言い聞かせているのに、足が、手が、身体が恐怖という金縛りにあっているように動いてくれない。
敵は目と鼻の先まで来ている。
「来おった!命知らずの馬鹿どもが来おったぞォ!!!」
ローズマリーは早速巨大な鎌をまるで手提げかばんの如く横に振り回した。空中に舞い飛ぶ三つの頭。赤い軌道が宙に弧を描いた。エースも回り込みで襲い掛かる敵を次々と斬ってきった。慣れているのか涼しい顔のエースと違いローズマリーは本当にゲームを純粋に楽しむ子供のような無邪気な笑顔だ。狂気ならぬ狂喜じみている。
「…くそッ!」
レイチェルも勝ち負けなどの概念はとうに忘れてただただ反射的に向かってくる兵士を薙ぎ倒す。
「こんなのキリがねーぞ!!」
斬っても斬っても夥しいほど沸いて来る敵の数は一人で相手をするには厳しい。焦燥感は増す一方だ。
「さっさと片付けるとは言ったがこれは無理か…!?」
「やはり全く動いておらぬではないか!」
突然ローズマリーが叫んだ。息も上がってない。不機嫌そうにこちらを見ている。周りには敵一人もいなかった。それがつまり何を意味しているかはすぐに察しがついた。
「騙しやがったな!?」
「試したのじゃよ!!」
ローズマリーは最初こそ自らにもおびき寄せたが、自分で確認できるようにあらかじめ来る兵士の量を調整していたのだ。配置場所を決めたのもローズマリー自身でもし位置を全て把握しているとすれば可能でも、そんな余裕すらあったのは実に驚きだ。
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