「アレか…能力としては素晴らしい物を持っているのだがな…」
フランネルが突然「…お腹すいた」とわざとらしくぼやくので嫌々トーストを半分ちぎって口に押し込む。
「触れた相手の体力を奪い自分の物にする。ゲームの世界ではこれ程のバランスブレイカーはいないよ。触られただけでHPがどんどん減って相手はピンピンしてるんだから。」
フランネルにはシフォンのいうゲームの世界が理解できない。
「…体質しかり、「よりそれらしくあるように」…か。アリスに見せるのは少々気が引けるものばかりだな…」
「気を引いてる奴もいるわよ」
フランネルは長い尻尾である一方を指した。
「…トランプが逃げ出さないわけだ。…奴もゲームにおいては「公平」なら何も言わない。」
その先には、手に黄金のカードを手にして迷路の方を張り付いたような笑顔で監視しているジャックが立っていた。
――――――――……
「………アリス?」
「…あっ……あ…その…」
アリスは自分の取った行動に混乱した。今の彼はいつもの優しく気配り上手で自分を心配してくれて手まで差し延べているではないか!でも、いくら拭っても取れない「汚れ」がこびりついたその手に触れられるのを身体が自然に拒んだのだ。
「………ご、ごめ…なさっ」
悪い人ではない。わかっている。胸を張って言える。
でも、なんだろう。違う彼を見てしまったようで。とても、怖い。
怖いのだ。
「…………………。」
レイチェルは何も言わず手を引っ込め、再び背中を向けた。
「…何もしなくていいよ。多分ばれない。ついて来るだけついて来てくれ。」
そう言うと今度は走るのをやめ、ゆっくりと歩き始めた。彼にとっては目を合わせるのも怖いのか。だろうと関係ない。アリスにかけた声には落胆でも諦めでもない。謝るのがなんにせよ1番手っ取り早いはずなのにわざわざそう言ったのは、こんな時にでも彼は気遣いを忘れていなかったからだ。
背中が少しだけ、大きく見えた気がした。
「……ゔん…っ。」
恐怖を覚えもしたが変わらない優しさに、何も出来ない自分に耐えられないアリスはとうとう涙ぐんで剣を引きずり後を続いた。
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