淘汰の国のアリス | ナノ

そんなやりとりを他人事のように眺めていたアリスは誰かがこの部屋に向かって来るのに気付く。小さくゆっくりとした足音。奥の方でわからなかったどうやら階段の隣に扉があるみたいだ。右の扉が重い音とともに開いた。

「……あ……」

アリスはその人物を、信じられないという様子で見つめた。

「…兎…さん…?」

そこにいたのはアリスをこの国へ導いた白兎、ピーターの姿だった。彼と過ごした時間自体は少なく、そのあとに色々な事が一気にありすぎて頭の中で存在があやふやになっていた。しかしアリスが驚いたのはそういう事ではない。彼もまた赤や白を基調とした、そこらへんの兵士より派手な着こなしをしていたからだ。軍服とより位の高い貴族に使える召使というほうがお似合いだ。だがその手には斧が握られていた。

「…なんだ、いつもの御一行様か。」
ピーターは職業柄なのか、真顔のまま表情を変えない。
「あの…っ!兎さん…」
アリスは出会った時に「ついてこい」と言われたのも思い出す。案内とは別として今となっては必死になってまで追いかける必要はなくなった。だが彼に話したい事は沢山あった。興味ではない。疑問だ。そしてもし「あの事」がばれていたなら、いやそうでなくても謝らなければいけない。
「なんだい?」
「貴方は…なんでこんな所で…」
「私は女王陛下の側近なのでね。」
久しぶりに会ったのにまるで初めて会ったかのようによそよそしく話す。仕事だとしてもピーターの態度に違和感を覚えた。

「…迂闊に知らないまま変な所に入られても困る。私の後を続くんだ。」
淡々とそれだけ言って背中を向けて歩き出した。

そっけない。無駄な事は話しかけるなと直接でないだけで背中がそう言っているように感じが伝わってくる。今「あの事」を話したら…「家を壊してしまった事」を話したらこの場の雰囲気を悪くするに違いない。だが今を逃したら、また彼と話す機会を失うかもしれない。引きずるのは嫌だ。覚悟の上でアリスはピーターの白いマントを引っ張った。





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