「……………。」
お互いが睨み合い空気は更に張り詰める。まさしく一触即発だ。たとえ何かしら用事があったとしてもここで迂闊に手を挙げるものならどうなるかわからない。わからないし嫌な予感しかない。周りはただシフォンとアリスの行く末だけを心配しながら離れた所で見守る。
「…………………はぁ〜…。」
しばらく続いた静寂を破ったのは玉座に肘をついているハートの女王の深いため息だった。
「……そうであったな。すっかり忘れておった。」
ため息というよりは荒ぶった感情を落ち着かせるための一息なのかもしれない。憤怒の表情はなかった。
「……妾はこの不思議の国、すなわち淘汰の国を統べるハートの女王であるローズマリーと申す者。」
しかし誰かを歓迎するような素振りは見せず、その場をなんとかやり過ごしたシフォンもアリスをかばったままだ。周りの緊張感も緩む事はない。
「そなたの事は重臣ピーターから聞いておる。」
「ピーター…?」
―えっと、どこかで聞いた事ある名前ね…―
だがアリスはその名前が誰かを思い出せないでいた。そもそも自分の何を話してくれたのだろうか。そちらの方が気掛かりで仕方ない。
「そなたとは一度逢ったことがあるだの、その時に助けてもらっただの、1番アリスに相応しいだの、今まで色々なアリスを見てきたがこれ程興味をそそる奴はおらん」
「え…っ、待って?私そのピーターていう人」
「アリス」
そこまで言ったアリスはシフォンに一瞥され口を閉ざす。
「後で話を聞く。」
「…………。」
話したい相手は他の誰でもないローズマリーなのだがそう言われたものなら下手な事は出来ない。
「妾からわざわざ招くような事はめったにせぬ。部下のジャックを遣わせたはずじゃが…」
そこでジャックと名乗った樹海で出逢った胡散臭い男性を思い出した。
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