「どうした?アリス」
「…でも、私なるべく早く帰らないと…お姉様や皆を心配させちゃう…。」
その通りだ。突然深い穴に落ちてきり、きっと家族は大騒ぎどころではないはずだ。騒ぎが余計に大きくなる前に一刻でも早く自分の無事な姿を見せなければならない。
「その点に至っては問題ない。アリスがこの国にいる時は向こうの世界の時間は止まっている。」
シフォンのその言葉を聞いて一安心した。
「君が1番疲れているだろう。その状態では勝機がない。ゆっくり休んで作戦を練ってからいこう。」
「そうね。そうしましょう。」
こうしてレイチェルとフランネルを加えた四人は一旦道の途中の宿屋で疲れを癒してからハートの女王の待つ城へ向かうことにした。
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場所はハートの城。
赤い絨毯に淡いバラの模様が描かれたクリーム色の壁に囲まれた廊下をピーターは分厚い書類らしき物を腕いっぱいに抱えながら歩いていた。向こうからも誰かからが近づいてくる。
「ピーターじゃないですかー!相変わらずお仕事大変ですねえ。」
「…なんだ、ジャックか。適当にフラフラしている君と違って僕は忙しいんでね…あ、そうそう。」
ピーターは書類の1番上の紙をジャックに渡した。生気のない女性の顔写真と名前、他にもその人物にまつわる情報が丁寧な字でびっしり書かれていた。ジャックはそれを受け取ると目を丸くする。
「これは…」
「明日にも処刑が決まる。…だがこいつに至ってはちゃんとしたお墓も用意した方がいいかもしれない。ついでに女王陛下に伝えておいてほしい。」
「……りょーかい。」
二人はすれ違って進んだ。
「…久しぶりの雑用か…まあいいけど」
廊下の向こうのドアを開けると一気に暗くなる。ため息をつきながらピーターは地下牢に繋がる螺旋階段を壁を伝いゆっくりと降りていく。足音さえ響く。
「掃除か……しかし、本当に女王陛下が言ったことなのか?」
実際にはカード兵から「女王がそう言っていた」と聞いただけだった。普段この牢はまず使わないのでそう思うのも余計である。
だが綺麗にして咎められることはないだろう。ピーターは殺風景な石造りの牢を見渡した。
「まずは掃かないと…ほうきはどこなんだろ…。」
ガシャン
鉄格子が閉まる音がした。
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