帽子が音を立てて湿った枯れ葉が覆う地面に落ちる。するとアリスは何かに顔を埋めたような圧迫感を感じた。濡れた、でも温かい。背中では更に細い物がおさえつける。
「大丈夫だ、アリス。」
アリスの震えを、全てを包むように。
シフォンは力強くアリスを抱きしめた。
「……え……あ…?」
アリスは目を泳がせている。顔を赤くさせるとか、恥ずかしいとか、そんなものではないもっとそれ以上の何かが込み上げてきた。
「僕が君を守る。僕がなんとしてでも君を「アリス」にしてみせる。だから…」
うるさい雨の音に掻き消されることなく、ずっと近い所で力強く聞こえた。
「…君は自分を信じてあげるんだ。」
「……………うん。」
「ありがと……。」
そんな二人を容赦なく雨がたたき付ける。森の中はまるで時間が止まったかのように、しかしそのままゆっくりと流れていった。
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しばらくして二人は十数分ぐらいで森を抜けた。ジャックが逃げたとはいえ出口は近かったようだ。森の外は全く別世界のように晴れていて空気も乾いていた。冷えた所から出たばかりだからとても心地好い温度である。
「…抜けたわね…」
「ああ、そうだな。」
アリスは後ろを振り返る。今は木々で隠れているが、あの光景が頭から中々離れてくれない。一方シフォンは濡れたローブを雑巾のように絞ったり、纏わり付く服に気持ち悪さを感じていた。
「とりあえず、僕らはハートの女王のいる城に向かおう。君はこの国に来てしまった以上はアリスになるまでは帰れない。」
「……………。」
目の前に続く道を二人はじっと見つめた。
「…この先にいるハートの女王を…倒すのね…その…、私…誰かを倒すとか…」
「その時は僕を頼ってくれ。君を「アリス」にさせたいのは同じだから。」
シフォンの意図がいまいち理解できないが、その言葉と真っすぐな目はアリスをしっかりと支えてくれた。
「私も、覚悟を決めるわ。」
「…それでこそアリスだ。さあ、行こう。」
「うん!」
力強くアリスは頷き、二人は同じペースで歩き出した。
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