「……………!?」
アリスは力任せに振り向かせたその人物をみて驚いた。
「……帽子屋……さん?」
自分の名前を何度も呼んで駆け付けてきた人物は、お茶会で一人優雅で落ち着いていたその人。シフォンだった。
大きく洒落た帽子に、緩く巻いた亜麻色の髪は雨に濡れて真っすぐに伸びている。ブラウスも水分で透けてなんとも寒々しい。冷えきった雨がずっと身体を打っていたからか顔は白い。しかしその穏やかな人物像からは想像出来ないぐらい血相を変えた必死な表情だった。アリスは信じられないでいる。
「…なんで…?ここに…?」
それには答えなかった。
「やはりアイツか…逃げ道が近くなってからわざわざこんな…!」
正直、理由はわからなかった。わけもわからずアリスは混乱している。こんな顔もするんだともびっくりしている。だが仮に助けに来てくれたとして、何をどう伝えていいか頭の中で会話を整理するのに精一杯だ。それでも今1番伝えたい気持ちをぶつけた。
「…私、死にたくないよぉ…、でも…私…私はもう…!」
「アリス!いいか、今はとにかく「アリスになる」という事だけを考えろ!!」
そう言うシフォンの目は真剣そのものだ。
「よく聞け、この森は心に迷いを抱える者は永遠にここを抜けられなくなる!今君がここで迷ってしまったらいずれにせよこいつらと同じことになるぞ!?」
あまりの気迫にアリスは黙って何も言い返せない。本当に、つい最近会ったばかりの誰かにここまで心配されるものかと疑いたくもなる。でも
信じたい。
「…私…女王さまに…認めてもらえなかったら…」
「………………………。」
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