「…更に哀れな事に、アリスのいた世界での存在もなかったことにされてしまうんですよ。可哀相に…。」
「―――……!!」
それはつまり、今まで生きていた証も全て無くなるのだ。
友達、ペット、親、家族、アリスと知り合った皆が覚えているのにも関わらず。突然、持ち物を忘れるように簡単に…いや忘れるんじゃない。アリスという存在がなくなるということはもう救いようがないのだ。
「アリス、君もいつになったらこの森を飾ってくれるのでしょうか…あははは…でも、もしかしたら…?それはそれで実に面白い!」
アリスはもう聞いてはいない。聞くことを拒んでいる。しかしジャックは続ける。
「…ああ、言っておきますが俺は決して人を虐めるのが好きというわけではございませんので。よく誤解されるんですよぉ。だってこんな森二人で歩くだけも退屈ですから…」
「………………。」
耳が彼の言うことを拒んでいる!アリスは頭をおさえた。
「――――――リ……ス…」
その時だった。
周りの声や音を一切拒絶していたアリスの耳に誰かの声が聞こえてきた。それはジャックにも聞こえたようだ。
「おやおや…アリスを守るナイトのお出ましだ。」
ジャックは軽々と身を翻し背を向けた。声は次第に自分達の方へ向かって近づいてくる。
「……アリス!!」
「……この……声は…?」
アリスは声のする後ろを振り向いた。まだはっきりと声の主を確認できない、しかし、確かに聞いたことのある声だった。
「…では俺も女王を守るナイトに戻りますか。エースにいいとこどりされてばっかりもアレですし、一応王宮導師ですから。」
ふとジャックの方を向いたら彼の姿はもう既に幾分か小さくなっていた。背中を向けながら最後に彼は言い残す。
「…ナイトではなく導師か…。いや、ただの道化ですか…。」
降り注ぐ雨に掻き消される様に消えていった。
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