「…?」
アリスも何の躊躇いもなく落ちている人形を踏む。
しかし、思わず足を上げてしまった。
「…なにか違うものでも踏んだのかしら…。」
始めに踏んだ物とは明らかに
感触が違う。なんだかさっきよりわずかながらに柔らかい。不思議に感じたアリスはそっと踏んだ足元を見た。
「…………ッ、えっ、あぁ!?」
足元に転がっていたものは人形だ。確かに「人形だった」。
「―…あ、うあ…なッ、何よコレ…!!嘘…でしょ!?」
まるで雨が流してしまうかのように
爛れていって
流れていって
溶けてしまって
―真実の雨が偽りを全て溶かすようにして―
そこには、赤褐色にまみれた白い人らしき物が横たわっていた。もはや声すら出ない。それもそうだ。死体と間違えるほどの精巧な作りの人形だときっていたし実際にそうだった。何が起こったのだろう、頭の中がパニックになる。実際こんなのを見た物ならパニックどころではない。ある程度さっきので免疫がついたとはいえこれは別の話だ。あまりの衝撃にやや涙ぐんでいる。
その感情のはけ口は当然、目の前にいるジャックだ。
「…ねえ、これは…これはどういう事なの…?」
「……………………。」
ジャックはふと上を見上げる。返事はない。
「ねえってば…!」
どうにかして何か答えて納得させてほしい。その思いからなる焦燥感で胸が押し潰されそうだ。
「……アリス、せっかくですから他の方々も目に焼き付けておいてあげて下さいね…。」
「………あ、貴方って人は…!」
そうだ。足元ならぬ地面には、先程アリス達が歩いてきた場所に転がっていた人形にも赤褐色がかかっており、中には生々しい部分が露になってる無惨な姿を晒しているのもあった。更に今まで気づかなかったが、木々にもぶら下がっていたのだろう。白く痩せこけた腕や足が吊られていた。急に漂う鉄のような、そうとは言えないような臭いに支配され現実味を帯びて吐き気がした。
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