淘汰の国のアリス | ナノ



******

「…貴方はジャックって言うの?」
か細い足音。道なき道をアリスは目の前のジャックを頼りに続いて歩く。その背中が今は何よりの頼りだ。

「…はい。たまにジョーカーと呼び間違えられますけどねぇ〜…それも慣れましたが。まあ君はとりあえず、アリスってことでいいでしょ?」
「……うん、そうね」

「おや?随分お疲れのようですね?」
ジャックは立ち止まり心配そうに振り向く。アリスの顔は今までの活気がなく、疲弊しきっている。
「……疲れた…というより、身体が痛いの。足に力が入らなくて…」
消え入りそうな声でそう言った。思い返してみれば穴に落ちて多少身体を打ってそこからはしばらく走りっぱなしで一時の休みも心休まるものはなく、そしてとてつもない高いあの空から落ちた。軽い捻挫とはいえ、それさえもアリスの体力を奪ってゆく。この果てしない森はまるで心が病んでいくようだ。

「うーん…しかしあまり休む間もないんですよぉ。もうじきこの森にも雨が降る…」
「…雨?」
もしこの状況で雨など降ったら最悪だ。

「ここにとっての雨はちょっと厄介でしてねぇ〜…降るまでに森を抜けましょう。」
「……うん!」

アリスは自分に「ここを出なきゃ」と言い聞かせ下ばかり俯いていた顔を上げ、二人はまた歩き始めた。

「…ちなみにこんな場所は樹海って言いまして。樹の海かあー…俺は普通の海で泳ぎたいものですよ」
場に似合わない呑気なジャックの言葉でつい最近のことを思い出す。

「……さっき私海に行ったのよ。」
「へぇ〜!そりゃあ羨ましい限りですよ!…樹の海と青い海、どちらがいいですか?」
「…………。青い海ね」
アリスは、疲れたので言葉を紡ぐのにしばらくかかったが迷わず言った。





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -