場所は三月ウサギの家の庭。そこにはとても優雅なお茶会が開かれていた。テーブルには沢山のお菓子やデザート、ティーセットが所せましと並んでいる。
「……いたい…っ、うぅ…」
だが、お茶会の会場提供者であるレイチェルは涙を時々拭って嗚咽している。頭にはそれは大きなたんこぶが一つ。耳はすっかり垂れ下がってより存在感を放っていた。そして客人のフランネルはその横で何事もなかったように椅子の上で丸くなって寝ていた。
テーブルの真ん中。涼しい顔でトーストを頬張っているシフォンの優雅なことだ。
「…アリス…いつの間にか、行ってしまったみてーだし…ひっ…だいっ…じょぶ…かなぁ…ひぐっ」
「バカ、そんなの杞憂さ。」
泣きじゃくる相手にバカと言う始末だが、レイチェルには杞憂という言葉の意味がわかっていないようなのであながち否定できなかった。
「…アリスは自分の帰るべき場所を見失わなかった。逃げることも溺れることもなかった。これこそ僕の求めているアリスだ。……まあ、いて欲しいのは山々なんだけどね」
「シフォン…」
その表情は誰かを愛しく想うような、穏やかで少し寂しそうなそんな薄い笑顔だった。それを見たレイチェルに何も返す言葉はなかった。
彼はこれで満足しているのだから。
バタンッ
「――――…!?」
突然、庭の入口に人が倒れ込む。それを見たレイチェルがただ事ではないと急いで席を立った。
「おい!一体何があったんだ!大丈夫か!?」
倒れている金髪で長いコートを着た少年は肩をかされゆっくりと身体を起こす。服はぼろぼろで傷だらけ、服の周りには金色に輝く羽と漆黒の羽がまとわりついていた。
「…我のことはいい…早く…アリスを…」
「アリスが何だって!?」
「…途中…鴉の群れに襲われて…その時に…あの迷いの森に…なんとか逃げたが…我はあそこには入れ…ゔぁっ…」
だが金髪の少年は話すことすら苦痛なようだ。
後からこちらに向かってきたシフォンは静かに問う。
「…アリスはそこにいるんだな?」
「…間違いない。そう遠くではない…。……アリスを助けてくれ!お主なら入れるはずだ!」
そう言うと少年は腹をおさえてうずくまり、見かねたレイチェルはそのまま家の中まで運んだ。
シフォンは、先程の穏やかさのかけらもない、焦りの色を見せた。
「…無事でいてくれ…アリス…!」
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