「………いっちゃった…。」
岩場に腰をかけて点のように小さくなっていく一つの姿を眺めている。
「……流れで頷いたのもあるけど、大丈夫かなぁ…。………なーんか忘れてる気もするけど……ま、いっか……。」
誰もいない、つまり他人に気を遣う必要がない今では誰しれず呑気にこのだだっ広い海で一人くつろいでいた。
「………あ……。あああああああぁ〜!!!しまったあああああぁあぁあああ!!!!!」
何か思い出したように、口を開けば穏やかな静寂はすぐに一人の大声により破られた。リュックの重さなど諸ともせず勢いよく立ち上がればもう何もない青空に向かって叫んだ。
「おおおおおーい!!!も、戻ってきてえええええーーー!!!!」
だがそれも誰にも届かず空間に吸い込まれた。エヴェリンは一人、今までで1番酷く慌てて右へ左へ動き回っている。顔はすっかり血の気が引いていた。
「あ…あぁあ…どどどうしよう…。肝心なこと言うの忘れたよおぉ…、残酷だ…こんなの残酷だ…!!」
「実は死にに行ってるようなものですからねぇ。」
「―――…!?」
つい向かい側の岩場には、今までいるはずのない誰かがいた。
「あああああ貴方は貴方は…!!」
「…まあでも、聞いてから進むのと聞かずに進むのでは違いますからねえ。何も知らずバッサリはそれまでがつまらないですし。」
誰かは薄ら笑みを浮かべてこう言った。
「…この国も随分つまらなくなりましたからねぇ〜。…俺は楽しければそれでいいんですよぉ。アリスもきっと、そんな目で見られてるんでしょうから」
そして去っていった後、エヴェリンは涙を流して膝から崩れ落ちた。
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