淘汰の国のアリス | ナノ

「ウミガメが高くて中々手にはいらないから…確か牛をどうたらって…」
「いえいえいえそんな僕が何なのかご存じっていうだけで嬉しい限りでございますますひいぃ。」
残念ながらうろ覚えであった。しかし名前を知ってくれてたことがよほど嬉しかったようだ。

「そうです。…僕は庶民の気持ちをそれなりに満たすために作られたウミガメもどきです。…まあ、喜んでいただけるなら僕は生きてる甲斐があるってことでいいんですけどねぇ…。」

思い出話を語る大人のようだ。

「ですが、ここに「必要」だからといって来させられてからはもう…「お前は牛か、それともウミガメ」なのかと…。そんなのこっちが聞きたいですよ…、僕はいままでウミガメだと信じて生きてきたのに…。」

そう語ったエヴェリンは懐かしそうに海の彼方を眺めた。アリスはただただ黙って聞いている。あながち他人事ではないみたいに。

「とりあえず自分をウミガメもどきとは言ってますが…なんだか疲れてこの場所を知ってからはひっそりと…。海にいればもしウミガメと言ってくれるのではないかなーって淡い期待もしているわけですよ…。」
「ウミガメさん…。」

そうだ。似たようなものではないか。

アリスとして当たり前のように生きてきて、この国に来てからその当たり前が曖昧なものになってしまった。

「お主が何かは知らん。しかし、アリスと決めつけられてはそれを否定され、今となっては自らを見失いかけてはないか?」
「この場所に入ることができたのは、そのせいだと思います…。」

「……………。」


自分も、水の泡のように、泡沫のように、ふわふわとしたわかりづらい何かなのか。「君は君」だと認識されないのはこれ程までにやる瀬ないこと、居場所すら失ってしまう。フィッソンはあくまで空想上の生き物であり信じない人からは否定され、エヴェリンに至っては自分が生かされてる意味すらない。






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