「あのっ、あれはだな…その…一度は言ってみたかっただけでほ、本心じゃないんだ!だから、な!ほら、せっかくだからゆっくりしていってくれ!」
青年は腕をしっかりと両手で握り必死な表情で懇願する。さっきのは一体何だったのだろうとアリスはその様子を不思議そうにじっと見つめていた。が、わざわざ呼び止められたものだからアリスは渋々手をひかれてついていった。
「…すごい…美味しそう…ね。」
「だろ!」
青年は自信満々だ。
テーブルの目の前まで来て見下ろしてみると、数々の陶器でできたカップやらティーポッドが椅子の前にそれぞれずらりと規則正しく並んでいた。真ん中が特に賑やかでカップには並々と紅茶が注がれており、皿には焼きたてのアップルパイや果物が盛られた大きなケーキ、一つの銀の皿にはマカロンやスコーンが一緒に積まれている。見る限り、まさしくお茶会といったところだ。
「そちらにでも座りなよ」
少年がその中のスコーンを一つ口に放り込んだ後、アリスに自分の反対側の向かい側の席を手に持ったフォークで指した。
「その態度は客に対して失礼じゃない?」
椅子を引いて腰をかけながらそう言うも少年はそのフォークを近くのケーキに刺して
「僕は紳士ではなくただの帽子屋だからね。君も招かれた客ではないだろう?」
確かにアリスは招待されて訪れたわけではない。それにアリスも別に多少気になっただけでこれ以上咎めるつもりもなかった。
「…あなた、帽子屋なの!?」
「いかにも…僕は帽子屋だ。名はシフォン。」
だからなのか、帽子も飾り気があるのは。
「隣で寝ているのは眠りネズミ…ヤマネのフランネル。さっきからやたら目障りなそいつは三月ウサギの…なんだっけ。」
「レイチェルだ!お前がつけたんだろ!」
帽子屋がつけた、という辺りが気になるがそれよりも気になったのがレイチェルに対するシフォンの扱いの雑さである。
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