「おや?」
早くもそのうちの一人に気づかれてしまった!真ん中辺りの席に座っている人物だ。貼り紙やら赤く目立つリボンなどで飾られた大きめのシルクハットをかぶった、亜麻色の緩い波毛を束ねた、童顔な少年だ。
アリスは思わずその場で固まった。どうしよう、優雅なひと時を邪魔した上に怪しまれている。逃げるしかないのか。少年は冷たく真っすぐな瞳でこちらを見ている。
「Guten Tag!」
「……?」
少年は、滑らかなドイツ語を喋った。なぜドイツ語かとわかったといえばアリスの姉がたまたまドイツ文学の本を読んでいたのを盗み見ていつの間にか一部を覚えていたのだ。アリスもぎこちながらも同じドイツ語で返した。
「Guten Tag!」
少年は挨拶だけしたようでその後は何もいわずに目を伏せる。それでは間が持たないのでそれから続く言葉を探り出した。
「Ist der Platz frei?」
丁寧に空いてる席を尋ねてみた。すると
「Ich Kann nicht verstehen,」
丁寧にわかりませんと返されてしまった。
わかりませんと言われて次に繋げる言葉がなかった。だが、その少年含めて二つの席以外はみんな空いていた。その中のひとつにはあるのではないかと、試しに違う人に聞くことにした。
少年の横に座っていた少女は茶色ネズミの耳を生やしており、まるで動物の毛のように広がったふわふわの薄いクリーム色の髪にリボンをつけている。服はワンピースのような服で首から何か提げていた。全体的に緩い雰囲気の少女だが、座ったまま気持ち良さそうに寝ている。
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