「〜〜〜♪」
木がおいおいと茂る森の脇道には、随分とその場所に不似合いな人影が呑気に鼻歌を歌って何かを摘んでいた。
「…えっと…これ!じゃないわね…」
ピンクのドレスを着たはかなげな少女。公爵夫人が片手に藁のカゴを提げて雑草の中をかきわけて何か探している。
「…あ、あったわ!!」
夫人は一つのふさふさしたそれを…猫じゃらしを摘んでは近くに生えている同じのをばらばらの長さでまた摘んでゆく。カゴは段々と緑色の毛のようなものでいっぱいになった。
「家来に任せてもよかったんだけど…やっぱり自分でとってきたもので遊びたいもの!」
そういうと服についた汚れを軽く払い、満足げに帰路につく。
「ナターシャ=ベルガモット。もとい公爵夫人。」
知らない声に呼ばれ、警戒しながら後ろを振り向いた。夫人、ナターシャの顔が一気に青ざめた。
「…あ、あなたは…!!…私に何の用…きゃああ!!」
「貴様に処刑の命令が下された。直ちに監獄へ連行する。」
そこには、たくさんの猫じゃらしをぶちまけながらカゴだけが残っていた。
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「………ほお〜…」
アリスは、一日の殆どを森で歩いただけな気がする…が。今度は森の中は森の中でも、飽きることはなかった。
パンジーやバラやヒマワリなど、季節という概念を無視して様々な花が所々に咲いている。普段見かけるものだが一斉に違う季節の花が咲いた所など見たことがない。しかもその中にはアリスのいた世界にはないだろう、水玉のオニユリなど奇妙なものが存在感を放っていた。
「お土産に持って帰りたいぐらいだわ!お姉様も、みんなきっと素敵って言うに決まってる!…でも、一気に持って帰ったら私のいる世界の季節に合わない花は枯れちゃうかもしれないわね。」
ふと、マーブル模様のペチュニアに目がいった。
「こんなのはどうかしら!いつの季節の花かわからないけど…こんな花…探そうたってないわ。枯れたらその時はその時よ!」
随分と機嫌が良さそうだ。更にアリスを上機嫌にさせるものを目の当たりにした。
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