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冬休みも残り僅かとなった頃、私は実に1年ぶりの実家へ来ていた。
変わらない三本鳥居と、その両脇に佇む2頭の狛犬。

…なつかしいなぁ。


なんて感傷に浸っていると、突然顔面に何かが張り付いた。


「ぶわッ」

「何をしているんだ、透。自分の家なんだからさっさと入ればいいだろう」


顔面に張り付いていたのはオロチの蛇さんたちだった。…可愛いから許す。
オロチはそんな蛇さんたちを窘めながら私に言う。

…簡単に言うけどなぁ、心の準備ってもんがあるんよ。
なんせ私が家を出た理由が、影や妖怪をこれ以上私に近付かないように、やねんから。




…結局、あの後オロチは言葉通りに影を塵一つ残さずに消したのだった。
オロチが言うには、これから先影みたいにしつこく私の力を求めるモノは出てこないらしい。なぜならばその都度オロチが牽制するとかなんとか…


「ぐずぐずしてないで行くぞ」

「ちょ、待ってオロチ!まだ心の準備が…」

「お前の母親も、心配していた」

「!……」

「俺も一緒に行くから。な?」

「……うん」


小さくオロチの小指を握り、彼に引かれるまま神道を歩く。
時々リスが視界の隅を横切ったり。枝から雪が落ちたり。そう言ったものをぼーっと見ているといつの間にか神社を通り越して離れに着いていたらしい。目の前に聳える玄関に立ち竦む私に、オロチがそっと背中を押した。
振り返るとオロチが微笑んでいて…


…大丈夫。


そして私は、インターホンを押した。


「はーい」


中から声が聞こえ、少ししたらガチャリと鍵の開く音がし、そしてゆっくりとドアが開いた。


「どちら様……」

「えと…ただいま、お母さん」

「透…?」

「うん」

「…あ、あかんやん!!なんでかえって来てん、ここにはまだ透を狙っとったやつがおるのに!!」

「大丈夫やねん!!あんな、お母さん…オロチが守ってくれてん」

「オロチ?」


私はお母さんにオロチが見えるように体を少しずらした。ちなみに、お母さんも少しだけなら妖怪やその類を見ることができる。
オロチの姿を確認したお母さんは、目を見開いた後「そっか…君が透を…」と呟いてそっと目を伏せた。


「君のことは知ってる。6年前、透を助けてくれた白い蛇やって。ずっとお礼が言いたかった。

…あの時、透を助けてくれてありがとう。そんで透、おかえりなさい…!」


そしてお母さんは、私とオロチを一緒に抱きしめた。すぐ隣で突然のことに戸惑ってるオロチが面白くって、私は中途半端に涙を流しながら笑ったのだった。





*****


「おい、こんな夜遅くにどこに行くんだ」

「もうちょっと!オロチ早くー!」


夜の10時ごろ、私はオロチと一緒にこっそり離れを抜けだし、昔の記憶を頼りに森の中を歩いていた。


「透、いくらあいつがいなくなったからって大胆に行動しすぎだ。もう少し警戒心をだな」

「だいじょーぶやって!!だって、その時はまたオロチが守ってくれるんやろ?」

「……はぁ。まぁ、守ってやらんことはない」

「へへ」


草むらをガサガサと掻き分けて、ようやくたどり着いたそこにふぅっと息を吐き出した。
ぽっかりあいた木々の間から漏れる月明かり。私はもう一度オロチとここに来たかった。


「ここは…」

「私が影に殺されかけた場所。んでもって、オロチと初めて会った場所」


確かここらへんでオロチが白い蛇さんの姿でころんって出てきたんやっけか。そう思ってしゃがみこんだ私を、後ろから何かが包みこんだ。


「それと、俺がお前に助けられた場所でもある。あの時、お前に手当てしてもらわなければ俺はきっとここにはいない」

「そんな大げさな」

「大げさなものか。…なぁ透、俺はこの先、お前がいいのならずっとそばでお前を守っていきたいと思っている」

「へ?」

「けれどお前の人生だ。俺がどうこう言える筋合いじゃないことは承知している。それでも俺は…」

「ま、待った待った!話が変わりすぎて追い付かん…えっと、つまり?」

「…単刀直入に言う。透の人生を俺にくれないか」

「………」

「種族が違うとかそんなのはわかっている。けれど、先日も言った通り俺はお前を心から守りたいと思っている。だから、俺と生涯を添い遂げてほしい」


なんか、いろいろぶっ飛んどるでオロチ…
とんでもないこと言われすぎて脳がキャパオーバー起こしてるんやけど…


「透?」

「ッ、あー…なんで、そんなこと言うんよぉ…」

「!?な、なぜ泣く!?」

「そんなん言うてぇ…わ、私、勘違いするやんか…!てゆーか、そんなん言われたことないし…」

「…してもいいさ」


そう言ってオロチは一層強く私を抱きしめた。


「私だって、オロチが大好きやもん…!」


木々の隙間から月明かりがこぼれる。そんな場所で、私とオロチはお互いの額をくっつけて笑いあったのだった。




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