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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「おかあさん、あのね、お庭に変なのがおるんよ」


それは私が小さいころだった。神社の離れにある家。物心ついた時からそこの庭に居座るものが見え始めた。
それは何をするでもなく、ただじ、っとそこにいた。


「透、お母さんと約束。決してあれに近付いたらあかん。絶対や。ここにおる限り透は守られるから」

「…うん」


それが、私とお母さんとの約束だった。

私は小さいころから外に出るのを許されなかった。小学校にも行ったことはないけれど、勉強は神社に勤めている巫女さんたちが代わる代わる教えてくれたからさして問題じゃなかった。


年を取るにつれ、庭にいたものが少しずつ、けれど着実に私の部屋に近付いてきていることはなんとなくわかっていた。

そして、私は10歳になった。





ある日、ふとなんとなしに縁側に続く襖を開けてみた。


「ひッ…」


縁側のすぐそばに、それはいた。しかも一番初めに見たときより大きくなったそれは、人のような形をしていた。

とても、怖い…
なんで、どうして…

恐怖に駆り立てられた私は、思わず部屋を飛び出した。
ここから離れないと、あれに喰われる…!

漠然とそう思った。

離れと神社を繋ぐ廊下を駆け抜け、鳥居を潜り、神社の近くに聳える森に駆け込んだ。
枝や葉であちこちが傷付こうとお構いなしに、私は走り続けた。

しばらく走った時、不意に開けた場所に出た。ぽっかりと空いた木々の間から漏れる木漏れ日に、思わず足を止めた私はそのままへたり込む。


「はぁ…はぁ…」


神社を飛び出したはいいものの、お母さんの言いつけを破ってしまった。怖いからと言って逃げ出すんじゃなくて、誰かに助けを求めればよかったのかもしれない。

…けれど、後悔してももう遅い。


少しの間、その場から動かずに呆然としていると、突然背後の草むらが鳴りだした。もしかして、さっきのがもう追い付いてしまったのだろうか…


「、…!」


ようやく揺れがおさまり、しばらく沈黙が続く。そして唐突に、何か白いものがころん、と出てきた。


「…へ、蛇?」

「しゅぅ…」


1mには満たないだろうが、そこそこ大きな真っ白い蛇さん。心なし弱弱しい気もするが、それは蛇さんが出てきた草むらを見れば一目瞭然だった。


「けが、しとるん…?」

「……」


多分おなかのあたり。そこから血が出ていたから、きっと何かあったんだと思う。
私は恐る恐る近づき、蛇さんのすぐ近くに膝をついた。


「手当するから、ちょっと動かんといて。な?大丈夫やから…」

「しゃぁ」


巫女服の懐から手拭いを引っ張りだして、なるべく蛇さんを驚かせんようにそれを患部に巻いていく。
普段やったことないからとても不恰好にはなってしまったけど…


「はい、終わり。ごめんな、こんなんしかできんくて…」

「しゃー」


蛇さんの黄色い目が、まるで気にするな、と言っているみたいで、思わず笑みがこぼれた。


『いた』

『みつけた』


「ッ!」


突然、後ろから黒い手が伸びてきて、私の首を掴み持ち上げた。
目だけを動かしてみると、そこにはさっきよりはるかに人の形に近付いた影がいた。ぎょろり、と動く目に大きく裂けた口。

あぁ、たべられてしまうんだ。
私は、ふと目を閉じた。











小さいころから、私には人ならざる者が見えた。
例えば、今目の前にいる、私の力をほしがるモノたち。悪霊。そして…


『ぎぃい…ッ、あ゛あ゛ぁぁぁあああ…!!!』


「…透に、手を出すなッ!!!!!」


妖怪と言われるものの類。







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