×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -





(オロチside)



土曜日。今日から二日間は透たち学生にとっての所謂“休日”というやつらしく、昼間にもかかわらず学生と思われる人間たちが町を徘徊しているのが見えた。

まぁ、正直いうと俺たち妖怪はがっこーになんて行かなくていいから毎日が休日のようなものだがな。

町を元気に走り回る人間たちや妖怪たちを尻目に、俺はいつものように透の家に訪れる。
彼女から貰った合鍵でドアを開け、履物を脱いでからまだ寝てるであろうこの家の家主のもとに飛ぶ。
部屋のドアを開けると、案の定布団を頭まですっぽりとかぶっている透がいた。

ふ、とマフラーの下で笑ってから透を起こすべくゆっさゆっさと揺する。


「透、透起きろ。もう昼だ」

「んー……あと、4じか…」

「夕方になるだろ。休日でゆっくり寝たいのはわかるが、いつまでも寝てると夜に寝れなくなるだろ?昼ごはん作ってやるから、な?」

「…うー……おきる…」


のっそりと布団から顔を出した透は、そのままぐーっと伸びをしてからゆっくりと布団から這い出てきた。


「ふあぁ…」

「おはよう」

「…ん、おはよ、オロチ」

「こらこら、寝るんじゃない」

「うむ…」


再び夢の世界に旅立ちそうな透を半分引きずるような形で洗面所に連れて行き、透が顔を洗っている間に昼ごはんと化した朝ごはんを作り始める。

台所に行き、もはや自分専用となったエプロンを着てから冷蔵庫に何が入ってるか確認する。
人参、じゃがいも…あ、そういえば明日から2,3日ここに来れないんだった。

ならば透には申し訳ないけど、日持ちするカレーにしよう。

そう思ったのと同時に冷蔵庫から必要な材料を引っ張り出し、まな板に並べていく。


「ふー、すっきりした」

「透、言い忘れてたんだが、明日から2,3日ここには来れない」

「…え、そ、そうなん?」

「ああ」

「なんかあるのん?」

「…ちょっとな、妖魔界に一度戻らないといけないんだ」

「そっか…オロチにはオロチの事情があるもんな。私んとこばっかこれへんのは当たり前やし」

「…すまん」

「ええよええよ!なんでオロチが謝るん?その間ちゃんと頑張るし!」


気にせんといて!とまだ若干の寝惚け眼で笑う透。
…今回俺が妖魔界に帰るのは、元祖と本家の妖怪がまたしょうもない理由で喧嘩をしたためである。いわばそれらの尻拭いと言ったところか。
全く、なんでカレーパン一つで喧嘩をするのか。半分に分ければいいだろうに。

はぁ…と溜め息を吐きながら人参の皮を包丁で剥く。


「おお…!すっご…なぁなぁ、オロチ!私もなんか手伝うで!」

「え」


キラキラ。今の透を表すならばこれだ。なぜそんなに目を輝かせているんだ。そもそも手伝うって…

すごく嫌な予感しかしないんだが…


「これくらい俺一人で大丈夫だ。だから透は座って待っててくれ」

「えー!なんでなん!?私だっていっつもオロチに任せっぱなしは嫌や!申し訳ないし、なんせ少しでも何かできた方がいいやん!

な?頼むわ!」


な?な?と迫ってくる透に思わず後ずさった。手伝い…手伝いも何も、お前家事全然できないじゃないか。

…いや待て。家事はできなくとも、案外包丁さばきはまだ人として見れる部分があるかもしれない。
家事ができないからってなんでも決めつけはよくないよな…

正直不安だが、少しだけなら…


「わかった。じゃあそこにあるじゃがいもを乱切りに切ってくれないか?それを透に任せて、俺はそれ以外の下準備するから」

「あいあいさー!」

「乱切りだからな。みじん切りじゃないぞ?」

「わかっとるってば!よーし、頑張ったるでー!」


俺から包丁を受け取った透は、意気揚々とじゃがいもに包丁を突き刺したのだった。

突き…



「え」

「切れんー!めっちゃプルプルするー!」

「やめろおおおおおおお!!!」


な、なんてことをするんだお前は!!危ないじゃないかッ!!てゆーかそもそも片手でじゃがいもが切れるわけないだろ!!


「透、お前猫の手は習わなかったのか!?」

「え?にゃんこ?…あぁ!!そういえば習ったかもしらん!」

「いいか、くれぐれも今みたいに片手で包丁振り回すなよ。わかったか?絶対だ、絶対だぞ!!」

「わかっとるって!オロチは自分のことしといて!」


そう言って俺の背中を押す透に限りない不安感が押し寄せた。
ほ、本当に大丈夫なのかこいつ…


「…ま、まぁ、何かあったらすぐに俺に言うんd《ドスッ》……………………」


そしてまもなく俺の顔面スレスレにびいぃぃん…と壁に突き刺さり揺れるなにか。
恐る恐る視線をずらし、それが包丁だと理解した瞬間ドッと滝のように全身から冷や汗が噴き出てきた。


「…オロチ、なんか包丁どっかに飛んでってんけど」

「……あぁ、そうだな。透の探してるものは恐らくこれじゃないか…?」

「……ごめん」


きっと今の俺は柄にもなく顔面蒼白なんだろう。透が冷や汗をかきながら挙動不審に目をうろつかせている。一つ言わせてもらおう。一番命の危機を感じたのは俺だ。

それからの俺の行動は早かった。まず台所から透を追い出し、椅子に座らせ、俺がいつもつけているマフラーを透に巻きつけて双頭に透を見張るよう言いつけてから颯爽と台所に戻ったのだった。
余談だが、透はこの龍の双頭をなぜか蛇と呼ぶ。まぁなんでもいいんだがな。

………これで幾分か料理がやりやすくなった。少し首元が寂しい気もしなくはないが、カレーが暗黒物質に変わるよりかは百倍もマシだろう。

切実に思う。
そして俺は誓った。二度と透に包丁を握らせないと。


「蛇さん、蛇さん!かわええなぁ」

「《透、すき》」

「《すき》」

「ふおぉぉお!!私も大好きやでー!!」


…なにやらリビングで盛大な告白大会が開催されているんだが。
煮込み終わったカレーをさらに盛り付けて、ついでに簡単なサラダと一緒にテーブルに運んだ。


「透、できたぞ」

「うん!なぁなぁオロチ!私もこの蛇さんマフラーほしい!!」

「いつかな。そんなことより、早く食べろ。冷めるだろ」

「はぁーい。いただきまーす!」


うまうま、と満面の笑みを浮かべながらおいしそうに食べる透に、無意識に自分の頬が緩んでいった。
自分が作った料理をこうして「おいしい」と言ってくれるのは、やっぱり嬉しいもんだな…

そう思いながら、俺も自分自身のカレーを匙で掬って口に含んだ。




-----

オロチさんの蛇さんマフラーがしゃべるという捏造。
あいつらめっちゃかわいい。結構本気でほしいと思ったのは私です。



[ 8/19 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]