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「ごっはんー。ごっはんー。きょーのごっはんは肉じゃがだよーん」
「なんにゃのにゃその妙ちくりんな歌は」
学校の帰り道、半分スキップしながら歩いてると後ろから聞きなれた声が聞こえた。妙とかめっちゃ失礼やん!まぁ多少は自覚しているけれども。
「お、ジバニャンやん!相変わらずぷりちーなフォルムしてんね」
「貶されてるのかそうじゃにゃいのかいまいちよくわかんにゃいニャ」
「少なくとも悪口ではない」
「そうかニャ」
塀の上で大きな欠伸をかますジバニャンはふらり、と2本の尻尾を知らして気だるげに言う。うん、かわええなお前。余談だが彼の友達であるケータくんとも私は知り合いだったりする。お互い妖怪が見える者同士ってことでね。まぁ、ケータ君の場合ちょっと特殊やけど。
「ところで、最近透はお腹をすかせてにゃいにゃん。にゃにかあったニャ?」
「いんや?なんもないよー。…おぅ、時間が時間やからもう行くわな!はよ帰らな怖い蛇様の雷が落ちるから!ほな!」
「気を付けて帰るニャー!」
ばいばーい!と手を振りジバニャンと別れた私。あ、そうや!いっつもオロチにはやってもらいっぱなしやから、今日はオロチが好きな元祖饅頭買って帰ったろ!!
そう思ったが吉日。ってことで早速おつかい横丁に行こうと思います!
*****
「ふー…ようけ買ってしもた…」
でーん、と手にぶら下がる4箱の元祖饅頭。いやぁね、饅頭屋のおっちゃんが「いつもお嬢ちゃんには贔屓にしてもらってるから、サービスじゃ!」とか言ってほぼ半額の値段で買えたんやけど…
「買いすぎた…どないしよ」
そもそも2箱でよかったはずなんやけどなぁ…まぁいいや。結局買ったん私やし、ケータくんや仲のいい妖怪たちにお裾分けでもしよう。
うん、それがええわ。
るんるん、と今度こそ隠さずにスキップで道を歩く。べ、別に恥ずかしくなんかないんだからねッ!!
ある程度行ったところで、ふと周りが静まり返っていることに気付いた。あれ、ここってば割と住宅地に近いから、今の時間帯小学生とかで賑やかやのに…
それになんか…霧で煙ってる…?
その直後、どおん!と凄まじい地響きがした。バランスを崩し思わず地面に両手をつく。
「え、何!?何なん!?何が起こってるん!?」
心なしその地響きが近づいてきてるような気もしなくはない。ちょ、これって本格的にやばいんとちゃうん!?てゆーかこれどういう状況なん!?
どすんッ!
パニックになりつつも悶々と考えていると、すぐ背後で今まで以上に大きな音がした。あの、これって振り返らなくてもいいですか?そのままスルーしちゃってもええ感じですか?あ、ダメですかそうですか。
そんなこと思いつつも、人間気になったら振り返らずにはいられない生き物なわけで。ギギギ…と錆びついた機械の如く首を後ろに回すと…
「…………」
「………(白目)」
そこには蛇様より怖い真っ赤な鬼様がおりなすったのだった。
「ぐわあああああああああああああッ!!」
「もんげええええええええええええええええええッ!!!」
ばびゅんッとまさしく脱兎のごとく疾走する私。鬼がッ…!!鬼さんがおったよ…!!なんでやねんなんでこんな堂々と出現しちゃってんねんッ!!
どっしんどっしんと鬼神のように追いかけてくる赤鬼さんに、私はただひたすら捕まらないように逃げるほかなかった。そもそも、体力とか皆無に等しい私がダッシュしたところで地味に足の速い鬼さんから逃げ切れるはずもなく。
「ぜー…ぜー…」
「?」
少しずつ遠ざかる足音にほっと胸をなでおろした。あぁ、マジビビった…今のは今年一番の恐怖やったわ…
公園の丸いトンネルになっている遊具の中で身を小さくする私。結局隠れました。
鬼が出てくるのは、子供が悪いことをしたからーみたいなのはおばあちゃんからうっすらと聞いたことあるんやけど…
ここで私の今までの行動をちょっと振り返ってみた。まずいつも通りにオロチに起こしてもろたやろ?学校行ったやろ?オロチのおいしいお弁当食べたやろ?饅頭屋行ったやろ?帰り道歩いてたやろ?んでもって今。
……なんも悪いことしてへんやんッ!!私いつも通り日常過ごしてるで!?なんでなん!?
「うぅ…めっちゃ怖い…」
ぎゅっと元祖饅頭が入った袋を抱きしめた時、変な音の後にものっそい速さで聞き覚えのある足音が近づいてきた。
音が鳴る方を振り返ると、なんか紫色の謎な一つ目の物体がいた。ちょ、何こいつなんかキモいでぇええええ!?
「があああああ!!!」
「うわ、来よった…!!」
慌ててその場から這い出ると、もう何メートルかのところに鬼さんが迫ってきていた。ぴしり、とフリーズする私。
「あかんあかん石造になったらあかんで私!!三十六計逃げるが勝ちッ!!」
再び始まった私と鬼さんの(結構ガチなリアル)鬼ごっこ。めっちゃ怖いがなああああああああああ!!!
「ぜッ…はぁ…ッ…」
とはいえ、3分も経たないうちに息が切れ始める。普段運動なんてせーへんから、正直今の私の体力はミジンコ以下ですマジで。小学生の方が元気やで。
「はー…はー…う、わぁッ!!」
どてッと足をもつれさせて盛大に転んだ。早く立ち上がらないとすぐそこに鬼さんが来てるのに、限界な私の足はちっとも言うことを聞かない。地面に這い蹲ったまま荒い呼吸を繰り返していると、
どしんッと目の前に赤い足が現れた。恐る恐る見上げると、なんかもう形容しがたい形相をした赤鬼さんがいらっしゃって…
あ、詰んだ。
ゆっくりと振り上げられる金棒を呆然と見つめながら、透ちゃん脂肪のお知らせが脳内にテロップ表示されたのだった。
じわり、と目に涙が溜まり、今更になってガタガタと体中が震え始めた。そもそも鬼さんとか初めて見たし、コミュニケーションの取り方とかわからんし…!
「あぅ…わた、食べてもおいしないです…!」
「悪い子にゃ、お仕置きじゃあああああああ!!!」
しゃべれたの!?いや今はそんなことどうでもええわ!!私なんも悪さしとらんっちゅーねんッ!!
「ッ…お、オロチぃ…!!」
ぐっと目を瞑った瞬間、私のすぐ傍をものすごい風が横切った。
思わず目をかっ開くと、ゆらゆらと揺れる青い蛇さんたち。そんな彼らが心なし心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「へ、蛇さんたち…?」
「全く、全然帰ってこないから来てみたものの」
ぽん、と頭に乗せられた手と視界に広がる紫にひどく安堵した。
「鬼時間に巻き込まれるなんて、何かしたのか?」
「おろッ…オロチやぁ…!!」
呆れた顔をするオロチに構わずに抱き着く私。そんな私を慰めるように擦り寄ってくる蛇さんたちに胸があったかくなった。
よく周りを見ると、道にひっくり返る鬼さんが。
「こわッめっちゃ怖かってんッ!!も、私本気で死んだかと…ッ!!」
「あー、よしよし、怖かったな。俺がいるからもう大丈夫だ。だから泣きやめ。な?」
「ぐずッ…う、うん…!」
「ちょっと待て!」
すっと私を抱き上げたオロチに、野太い声がかかる。あの赤鬼さんや…
「お前、どうやってこの次元に割り込んできた。そもそもここはその小娘をお仕置きするために作り出したものだぞ。そいつを連れているようなら貴様も容赦せん」
お、お仕置き…?やっぱ私無意識になんか悪いことしたんやろか…!!?
「俺はこいつの保護者だ。よってそのお仕置きは俺が引き受ける。透は連れて帰るぞ」
そしてオロチの一言にさっと顔を青くさせたのは言うまでもない。
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な、なんか名前変換が少ない…?
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[mokuji]
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