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もう、仕方のない子





「シュエ、落っこちんじゃねぇぞ?」


軽快に木々を飛び移るお父さんの肩にしがみ付きながら親指を立てる。私たちは今、お母さんから頼まれた薪を作るための大きな木を探すために、こうして森を駆けているのだ。


「大丈夫だよ、心配しないで!それよりお父さん、あんな感じの木なんてどう?」

「お、いいな!よし、そんじゃあれにすっか」

「うん!」


すたん、と地面に降り立ち、私もお父さんの肩から滑り降りる。少し離れたところまで下がると、お父さんはぐ、と構えて、思いっきり拳を木に叩きつけた。
ずどぉーん、と倒れた木はまさしく大木というに等しくて、それほどまでに立派だった。そんな木を倒してしまうなんて少しもったいない気もするんだけれど…


「このくれぇあればしばらく困らないだろ」

「お母さんもきっと喜ぶよ!早く悟飯にも見せてあげたいなぁ」


わぁ!と驚く悟飯の顔が容易に想像できて思わず笑みをこぼした。


「悟飯もおめぇと一緒に行きたがってたんだけどな」

「仕方ないよ。あの子まだ宿題終わってなかったもん」

「はは、だいぶ駄々こねてたけど。おっし、弟が姉ちゃんの帰りを待ってっから、早くけぇるか!」

「うん!」





「悟飯ちゃーん!」


家に着くと、お母さんが大きな声で悟飯を呼んでいた。
私とお父さんは顔を見合わせる。


「お母さん、どうかしたの?」

「あぁ、悟空さとシュエちゃん、おかえり!なぁ、悟飯ちゃんを見なかっただか?」


隣でお父さんが担いでいた木を地面に落とすからもんのすごい地響きで、一瞬体が浮いた気がした。


「ふぅ!オラもう腹ペコだぁ」

「なぁに言ってるだか!悟飯ちゃん見なかっただか?」

「え、悟飯いないの?」

「んだ。さっきまで部屋で大人しく勉強さやってたのに、気付いたらいなくなっちまってて…」


あぁもう、どこさ行っただかなぁ…早くご飯を食べて出かけねば、武天老師様たちがお待ちかねだべ。
そう困ったように言うお母さんにたらり、と嫌な汗が背中を伝った。どうやらそれはお父さんも同じだったようで、若干顔を引きつらせている。


「…もしかして悟飯のやつ、シュエを探しに行ったんじゃ…」

「…十分ありえるべ」

「わ、私探してくる!!」


原因が自分とあらば動かないわけがない。そもそも大事な弟なんだから当たり前なんだけどね。
ダッと駆けだそうとしたところをお父さんに抱え上げられた。


「わッ!おと、お父さん?」

「オラが探してきてやっから、シュエはここで母ちゃんと待っててくれ」

「で、でも…」

「でぇじょうぶだ!んじゃ、行ってくる!」

「あ、お父さん!」


言うが早いか、お父さんは私をお母さんに預けると颯爽と去って行った。ぽつねん、と取り残される私たち。


「行っちゃった…」

「とりあえず、シュエちゃんだけでもご飯を食べるだ。おめぇも武天老師様んところに行くだど?」

「うん…」


お母さんに手を引かれて家に入ると、食卓からすっごくおいしそうな匂いがした。わぁ、中華まんだ!お母さんの中華まんって絶品なんだよね。
いただきます!と手を合わせて食事をつつくものの、どうしても悟飯が心配で仕方なかった。あの子泣き虫だから、今頃どこかで泣きながら歩いてるんじゃ…


「シュエちゃん、手が止まってるだよ?」

「…ごめん、お母さん。やっぱり私も悟飯を探しに行ってくる」

「え、あ、ちょっとシュエちゃん!?」

「私も6歳だから大丈夫。それに、ご飯はみんなで食べた方がおいしいから!」


さっとふわふわなスカートを脱ぎ、膝丈のチャイナ服姿になると家を飛び出した。出際にお母さんの「全く、しょうがない子だべ」と言う言葉に苦笑いしてるんだろうな、と言うのがありありと想像できた。ほ、ほんとごめんなさいお転婆なんです私…






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