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終焉の朝焼けに




「お父さん、お姉ちゃんをお願いします」


そう言って悟飯からシュエの亡骸を受け取った悟空は、リングの上で怒りのままにセルをいたぶる悟飯を複雑そうに見つめた。そして視線を、動かなくなった自分の娘に移すと悲痛に顔を歪ませる。この光景はきっとテレビを通して全国に放送されているのだろう。そしてパオズ山の自宅で待っているチチの目にもこれは写っているはず。なんて、説明すればいいのか。あの時無理にでも引き留めておくべきだった。しかし、いくら後悔しても起こってしまったことは変えられないのだ。


「シュエ、ごめん…。ぜってぇ、ドラゴンボールで生き返らせてやるからな…」


ほろり、と光のないシュエの目から一筋、涙が落ちた。


「悟空…」


クリリンは項垂れる親友の肩をそっと叩く。みんながみんな、彼になんて声を掛ければいいのかわからないでいた。さっきまで元気に喋っていたシュエの変わり果てた姿に、彼女の師匠であり、実は誰よりも心を許していたピッコロは人知れず拳をきつく握りしめていた。


「…なぁ、悟空。シュエを神殿に連れて行こう。ただでさえ首や腕がもげてるのに、ここにいてもし巻沿いを食らっちまったら…ごめんな」

「いや、いいんだクリリン」


そっとシュエの体と首を抱きかかえた悟空は、背中でセルの断末魔を聞きながら神殿へと瞬間移送をしたのだった。

そんな悟空を見送ったクリリンは、そっとリング上に視線を滑らせる。


「まだ、だ…全然足りない。お前に受けたお姉ちゃんの痛みはこんなものじゃない!!もっともっともっともっと!!苦しめてやるッ!!!」

「ひッ…!わ、悪かった!!私が悪かった!!だから許し…ぐぎッ」


クリリンは悟飯がシュエを想う気持ちを誰よりも理解しているつもりだった。けれど、普段は優しい悟飯がまるで鬼神のように拳を振るう姿は見るに堪えなかった。自業自得、だなんてそんなこと思っていない。なぜならあの時のシュエの気持ちも痛いほどわかるから。大切な悟飯を戦わせたくないシュエと、大切なシュエを傷つけたくない悟飯。2人の思いが拗れに拗ってこんな惨劇を生み出してしまったのかもしれない。


あんな顔の悟飯をシュエが見たら、きっと卒倒するだろうなぁ。


そんなことを思いながら、憎たらしいほどの晴天を見上げるのであった。





*****



セルと悟飯の決着は存外早くについた。17号と18号を吐き出したセルに地球が深く抉れるほどのかめはめ波をセルにぶち当て、見事勝利を掴んだ悟飯は、クリリンやピッコロの制止も聞かずに早々にその場を飛び去った。


「あ、あいつシュエがどこにいるのかわかるのか…?」

「悟飯にはわかるんだろう。たとえシュエの気を感じなくてもな」

「…俺たちも行きましょう。行って早くシュエさんを生き返らせてあげないと」

「そうだな」


17号と18号を抱えて神殿に飛ぶ一向。セルを倒すことができたのは実に喜ばしいことなのに、それよりも胸にぽっかりとあいた虚無感の方が大きかった。


神殿に辿りついた瞬間、今まで晴れていた空が急に暗くなり、稲妻が走る。現れた神龍にどういう状況なのかを悟った一同は、神龍の下に佇む悟空たちのところに向かって急いだ。


「ご、悟空!」

「…悪ぃ、みんな。どうやらオラも、思ってる以上に余裕ないみてぇだ」


先に神龍呼び出しちまった。困ったように笑いながら頭を掻く悟空だが、そんな彼らに文句を言う人間は一人もいない。


「いいさ。それよりも早く神龍に願いを言えよ」

「…ごめん」


悠々と空に浮かぶ神龍を見つめた悟空は、まず初めに1つ目の願いを言った。それはセルに殺された人たちを生き返らせると言うこと。


「容易い願いだ。いいだろう」


神龍の目が赤く瞬く。彼にとって人を生き返らせることは容易いこと。きっと今頃完全体になる前のセルに殺された人々が生き返っていることだろう。それはシュエも例外ではないはず。もげた首や腕も神龍の力ですっかり元通りになったシュエを固唾を呑んで見つめる。
…けれど、待てども待てども彼女が目を開けることはなかった。思わずシュエの胸に耳を当てた悟飯は愕然とした。


「なん…で…なんで…なんで…ッ!!心臓が動いていない…!!どうして!?」

「神龍、どういうことだ!!なんでシュエは生き返らねぇんだ!!」

「愚問だ。ドラゴンボールで一度生き返ったものは二度と生き返れない」

「お姉ちゃんはドラゴンボールで生き返ったことなんてないッ!!!」

「…その娘は一度前世で死んでいる。その魂がこちらに来る際、その世界での神龍が娘を”転生”という形で生き返らせているため、もうドラゴンボールで生き返ることはできないのだ」

「そん、な…」


全員心当たりはあった。シュエから聞いた彼女自身の話。一度前世で死んだ彼女がこうしてこの世界に転生したと言うのなら神龍の言ったことも辻褄が合う。けれど納得はできない。沈む彼らに、神龍はゆっくりと口を開いた。


「…たとえ生き返れたとしても、その娘は生き返ることを拒否した」

「…どういうこと?」

「理由は知らん。だが娘の魂は夢幻層という場所で彷徨っている。この娘は特別だ。閻魔の裁判を受けられず、天国にも地獄にも行くことができない。お前たちに覚悟があるのなら、魂の未練がひしめく地獄の夢幻層に行くがいい」


私が言えることはここまでだ。さぁ、次の願いを言うがいい。

そう言う神龍を横目に今まで深く思案していた悟飯は、ぼそりと口を開いた。




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ここでいったんセルゲーム編を区切ります。




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