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我が儘とは





なんとなく勘づいてはいた。セルゲームを間近にしてどうしてお父さんがあんなに余裕なのか。でもそれはあくまで私の中での憶測に過ぎなくて、どうか杞憂であれとどれほど願ったか。
けれど、世の中はやっぱり残酷なようだ。
川べりに立つお父さんはぐっと背伸びをした。


「…………………」

「シュエ?どうしたんだよ、そんな怖ぇ顔してよ」

「…いや、なんでもないよ」


不思議そうに首を傾げるお父さんを横目にぐっと眉間を指で押した。どうやら全面的に顔に出ていたらしい。ダメだなぁ、顔にすぐ出る癖なおさないと。


「おめぇがそんな顔するときは、大体なんでもねぇときだぞ?」

「むぅ…」

「とーちゃんでいいなら、話くれぇ聞くけど」

「…なら、聞くけどさ、お父さんは一体何を考えているの?」

「え?」


きょとん、と目を瞬かせるお父さんは多分本当に意味がわかっていないんだろうな。だからこそ、私の中でモヤモヤとしたのもが蠢く。一度深く深呼吸をした。


「あの子はまだ11歳なんだよ?実力は確かに誰よりも上だと思う。私なんて足元に及ばないくらいずっと強い子だよ。けどさ、だからといって悟飯に全てを押し付けるのはどうかと思う」

「………セルに勝つには悟飯の力が必要なんだ。じゃないと、誰にもあいつには勝てやしねぇ」

「ッ…」

「おめぇが一番よくわかっているはずだろ?」


「わかってる…わかってるよそんなこと…!でも、それでも!私は悟飯を戦わせないから」

「シュエ…」

「…お父さんはさ、戦うことと実の息子の命、どっちが大切なの?」

「…!」

「…ごめん、なんでもない…」


お父さんに背を向けてその場を去る。あのままあそこにいたら、もっと酷いことを口走っていたかもしれなかった。確かに悟飯は強いよ。本人はきっと自覚なんてしていないんだろうけど、悟飯の中で眠る潜在能力には、幾度となく助けられてきたから。でも、それでも悟飯は私の弟で、大切な…その、うん。あれだ。あえて言葉を濁すけど。恥ずかしいから。
巨大な岩壁に飛び乗ってそこに腰掛け、足をぷらぷらさせながらぼーっと空を仰いだ。ムカつくぐらい晴天だな。いっそ土砂降りの雨でも降ってくれればよかったのに。
まぁ、どうでもいっか。


「戦わせない、か…」


悟飯を戦わせないとして、私がセルに敵うのだろうか。一応ベジータやトランクスを凌ぐと言ってもたかが知れていることは自覚している。きっとセルには勝てない。それでも、私は守らないと。もう二度と姉さんと同じような運命を辿わせないためにも。


「くぁー!」

「う、わ…は、ハイヤードラゴン?」

「きゅ?」


不意につつかれた背中に振り返ると、つぶらな瞳をくりくりさせたハイヤードラゴンが首を傾げていた。相変わらず可愛いやつめ。ハイヤードラゴンはいつも悟飯にくっついていたから、こうやって私のところに来るのは珍しい。甘えるように私の頬に顔をすり寄せてくるハイヤードラゴンをよしよしとなでる。


「…ねぇ、ハイヤードラゴン」

「くわ?」


ひとしきりなでたあと、ハイヤードラゴンの頭をぎゅーっと抱きしめた。


「…迷ってるの。悟飯じゃないとセルは倒せないって言うお父さんの言い分はすごくわかる。でもさ、私、悟飯を戦わせたくない。本音を言えばお父さんやクリリンさんたちにも戦ってほしくないの。お父さんにも八つ当たりみたいなことしちゃったし…これってさ、我が儘なのかな…」

「きゅぅ…」

「あー、ごめんねハイヤードラゴン。なんか私センチメンタルになってたみたいだよ。うん。大丈夫。みんなが戦う前に、私がどうにかすればいいもんね。だってお姉ちゃんだもん」


誰よりも早くリングに上がって、制止なんか振り切って、私がセルを倒せればお父さんもクリリンさんもピッコロさんも悟飯もみんな戦わなくてすむ。

今度こそ守ってやる。私の大好きな人たちを。






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