愚か過ぎて笑えてくるよ



※にょた日吉

女テニから男テニマネになった設定
















――あれはいつだったろうか。


本当に突然で、顔には出さなかったけれどかなり驚いたのを覚えている。




まだ日吉が女テニのレギュラーになって、間もない頃、男子テニス部と練習試合をする事になり、ミーハーな女子達はきゃあきゃあと浮き足立っている中、一人、彼女だけは落ち着いていて、悪く言えば浮いていた。

元々彼女はどちらかといえば男子テニス部に入部をしたかった。理由は不純なものでは無く、女子テニス部より、男子テニス部の方が過酷で、だけどより自分磨けるから。

そんな彼女にとって、練習そっちのけで男に浮き足立つ同じ部員の少女達は、同性ながらも呆れざる負えない存在であまり関わりたくも無かった。

だから一歩引いた場所で遠目から見ていたのに。


「――お前、男子テニス部のマネージャーになれよ」


「………は?」

まさか、こうなってしまうなんて。

ーーーーーーー

「まるでドラマみたいやなあ…、まあ相手役があの跡部やといくらべっぴんさんな日吉でも色々大変みたいやけど」

「忍足先輩、その肩に置いた手を離して頂けませんか」


頂けませんかと言いながらすぱんっと手を払いのければ怖い怖いとその男はわざとらしく笑った。その笑顔がまた癪に触るので、日吉は眉を寄せたまま顔を逸らす。



「けど、恨んでちゃうんか?跡部の奴に女テニから引き抜かれて無理矢理男マネにされたんやで自分」


「……恨んでるに決まってるじゃないですか」


そう、跡部は何故かあの場で日吉を見初めてしまった。そして否応なしに男マネにされ、そして跡部の恋人という立場だと学園中に広められてしまった。


恨んでない訳が無い。


酷くて、狡いと今でも想う。

下剋上という志を無くしてない自分がまだいる事が唯一の救いだ。


「…でも」


馬鹿なのも愚かなのも、自分も同じだ。

無理やりに所有されたというのに情を持ってしまい、あまつさえ気づいてしまった。
人生で一番感心が無かった感情。意地でも跡部から離れられない枷。


―――恋情だ。




「馬鹿ですね、俺」

「……日吉」



なんと滑稽だろう。
追い抜かしてやりたい人物に恋慕う事は珍しくないとしても、状況を判断し人を選ぶ頭と目くらいは持ち合わせていたつもりだったのに。

どうして、選んでしまった。




「若」



声に振り向き、ため息を吐いた。


「ホンマ…大丈夫なん?」


何故か心配そうな忍足に大丈夫だと意味を込めて頷けば、日吉は彼の元へ眉を寄せながら向かう。


忍足は、苦笑を浮かべながら、その背中を見送る。



――彼女は自分を馬鹿だと言った。



けれど。




「ちゃうんやで。
…誰かに惚れてもうた人間は、みんな阿呆になるんや、日吉」




――彼のように、彼女のように。


そして、自分のように―。







急に吹いた爽やかな風が、忍足の前髪を揺らした。






end




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