お花見
松川×犬吾/四話以降/ほのぼの
「花見ー花見―っ
ほら犬吾ブルーシートプリーズ!」
「……引くくらいにハイテンションだな松川」
「いや、だって俺花見とか初体験だし?」
「……へぇ」
現在、春の日差し差し込む午後二時。
俺と松川は春休みを利用して近所の公園に花見に来てたりする。
男2人はかなり目立つし珍しいので出来たら薫とか、たまに松川に連れられてく喫茶店のマスターさんとか誘おうとしたが、バッサリ松川の却下が下った。
理由は、…デート、だかららしい。……なんだろう。かなり恥ずかしくなる自分が恥ずかしくて仕方無い。ああくそっ!
…にしても。
「花見、したことないんだ」
「うん、因みに花見にだけじゃなくて海水浴とか遊園地とか動物園とか行ったこともないねぇ」
「―――はあ!?」
ぎょっとして見上げれば、そこにはいつも通りへらへらと笑う松川が居て。
だけど、今聞いた言葉は笑って言えるような事じゃない。前から思ってたけどこいつは本当はかなり酷い家庭環境にいるんじゃないだろうか…?
金銭面じゃなくて、精神的に響くような――――…
「あ、でも気にしなくていいよ。もう俺、そんなものいらないし」
要らない?
きょとんとする俺の手に、松川が自分の指を絡めてぎゅっとする。そしてそのまま甘ったるい溶けそうな声音と瞳を俺に魅せた。
「犬吾いるから、要らないよ」
「っ!」
うわ、不意打ちだ。
こういう所がやっぱり叶わない。
――だけど、
「俺は、やだぞ」
「へ?」
きょとんとする松川から手を放して、靴を脱いでブルーシートに腰を下ろした。
母さんが張り切って作った弁当を開けて、松川を見ずに宙を舞う花びらを見ながら、言う。
「行ったことないなら、行こうとするのが普通だろうが。今日、花見みたいに俺を誘えばいいだろ…!」
「犬吾…」
「俺ばっかりお前と行きたい場所があって、不公平だろうが!」
赤い顔を見られたくて逸らした顔の両頬に、後ろから手のひらが触れた。思わず目を閉じる。
「うん、やっぱりいっぱい行きたい。わんこと沢山思い出作る!」
「…ばかやろ」
振り向きざまに口が押し当てられた瞬間に、桜吹雪が起きて、本当に良かったと思う。
end