おかえりなさい
※『言いたい言えない』続編
変わらないと思っていた。
俺も、グリーンも、何もかも変わらずにいれるのだとチャンピオンとして新しい世界に立っていた俺はそう思いこんでいた。
でも、最強の存在として頂点に立っても、…何も見えなかった。
戦っても戦っても、負けなかった。最初はそれでも良かったんだ。戦ったトレーナーと笑いあって、「また戦おう」「今度こそ倒す」と言葉を交わし合う。やがてそれが空気のように日常的になってしまった。勝って、当たり前。
自惚れとは思わなかった。ポケモン達への愛情は人一倍だと思ってたし、一緒にたくさん修行もした。その結果なのに、その結果がやがて俺を孤独に蝕んでいった。そんな中集まるチャンピオンへの注目、期待、それは俺にとってのプレッシャー以外の何者でもなかった。
何も見えない暗闇の中、何度も来てくれたグリーンにもなんとも思わない態度で接し続けた。本当はその度に苦しくて、辛かった。けれど、俺の意志はその足をシロガネ山から降りる事を許さなかった。
そして、三年たった、この日。
「帰りましょう?レッドさん」
雪が舞う白い景色、空は曇った、絶壁の崖の上。
優しい笑顔で女の子は手を差し出している。
――久しぶりに、負けたんだ。
不思議と悔しさより安堵が胸に広がって、無性に泣きたくなった。
「ありがとう…」
小声でお礼を言って手をとると、女の子はまた優しく笑った。その笑顔と小さな手があまりにも優しすぎて暖かくて、瞬間、凍りづけだった心が溶けたようにある感情がすとんと胸に落ちてきた。
―――グリーンに、会いたい。
ずっとずっと、氷着けて押し込めていた想いが湧き出した瞬間だった。
―――――
「…思ったものの…」
あれから1ヶ月。
マサラタウンに帰って来てしばらくたつけれど、未だにグリーンには会えていない。
周りが離してくれなかったのもあるけれど、何よりグリーンが会いに来なかったというのもあった。
勢いでトキワの森まで来たけれど、やっぱり引き返した方がいいんだろうか。もしかしたらグリーンは会いたくないかもしれない……。嫌だけど、自業自得だから仕方ないし…。
「…やっぱり、今更会いたくないか…」
「――ふざけんなよバカ」
「!」
ふわりと、後ろから抱き締められた。誰かなんて声を聞いただけで解る。
女々しい事にじわりと視界が歪んで、震えて掠れた声が喉から漏れる。
「…ごめん」
「何が」
「…何度も来てくれたのに…俺は」
「それは違う」
抱きしめられてる腕の強さが少し増した。顔は見えないけれどグリーンの声も少し震えている。今にも泣き出しそうなその声音に思わず目を見開いた。
「謝んのは、俺だ。お前が抱えてるモンに気づけなかった。自分の事ばかり考えて、結局はコトネにお前を押し付けた」
「グリーン」
「……悪かった、レッド」
これは、グリーンなんだろうかなんて馬鹿な考えが頭を過ぎった。ぬくもりも声も同じなのに、あんまりにも優しくて、あまりにも弱くて。
でも、愛しい。
「…もう何処にも行くな。つか俺様が絶対に何処にもやらねぇから覚悟しろよ」
「……グリーン、クサい」
「うるせ」
今まで、悩ませてごめん。
でも、
「待っててくれて、ありがとう」
end
(←)
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