すぺくたくる学園(以下略)
M様×脇役平凡
平凡と言っても、俺はちょっと違った平凡だった。
必ず友達になる人間の中に、馬鹿に目立つやつがいるのだ。
俺と同じ平凡でもなにかと注目されたりするケイという友人や、美形故に常に変装しなければいけないという…………腐女子の妹の深雨曰わく王道という境遇のイブキという幼なじみもいる。
そんな彼等の友人の俺、夕凪 晴架ことハルカは平凡だが非凡な彼等と仲がよく、そいつらにトラブルが起こる度に浅くなく深くなく関わるという、いゆわる脇役な地位を築き上げていた。
そして、今回も同じだと思ったんだ。
「「ハルカ――!頼むっ、俺達と一緒に隣町の学園祭に行ってくれ!」」
「ああ、いいけど……なんで?」
首を傾げればケイとイブキは揃って眉を潜めた。それでなんとなく理由が分かる。多分明日の文化祭で生徒会連中から逃げたいから、他校の文化祭に逃げる気なんだろう。この二人は美形連中の集まりとしか思えないアホな生徒会の皆様のアイドルだからな。
「…わかったよ、その代わり俺は被害者ってことにしとけな」
「ありがとうなハルカ」
「やっぱりハルカは優しいぜ!」
優しいんじゃなくて断ってお前らが泣いたら俺の命が危ないんだよ…!
そんな訳で、俺はモテモテ二人組の逃走の付き添いとして、神崎高校の学園祭をフケって有名男子校蓮幸学園の学園祭に潜入することになってしまった……。
そして、今に至る。
「ケイくーん、イブキくーん、…
………どこに消えた!!」
潜入して一時間。
早速消えやがった二人を探して三千里……とまでは行かないけどさ迷ってます、俺。
イライラとしつつも早足で人混みを抜ける。
ああ畜生こういう時だけ幸せそうなカップルが目立って見えるからイライラが増すな―…って。
「あ」
見つけた。
あの低身長二人組は間違いない。
溜め息を吐いて、駆け寄った瞬間―――……
「おい、ケイ、イブキ―…」
「っ!!??」
「ぎゃあああ会長転がってった―――!!」
「え」
ふみっ
――なんか、横から転がって来た“何か”を駆け出した拍子に踏んだ。うん、柔らかい。なんか思いっきり踏んだぜ、俺……!しかもなんか一気に静かになったんだけど周りぃぃぃっ!
「…え、あの」
動けないまま恐る恐る視線を足元にやると、そこには。
「………」
唖然とした表情の、きらきら銀髪のものっそい美形さんの腹に、綺麗に食い込む、俺の右足。
「す、すみませ…ぐはあっ!」
「「ハルカっ!大丈夫か?!」」
足をどけた瞬間思いっきり小柄な男の子に突き飛ばされて、しりもちをつくと、場を察したケイとイブキが抱き起こしてくれた。同時に、周りもざわざわと騒ぎ始める。
そして俺を突き飛ばした子は唖然としながら腹を押さえて立ち上がる銀髪さんに涙目で駆け寄った。
「会長ぉぉぉぉっ!すみません僕が日頃の腹いせに会長転がしたがら――!!なにしやがるこのエキストラっ!」
いや、エキストラって酷くね。
そんな俺の心の訴えを何故かキレてるイブキが代弁してくれた。
「ざっけんな今の思いっきりお前がこのでかいの転がしたから悪いんだろーが!ハルカは悪くないっ」
「…今回ばかりは俺もイブキに同意かな」
「なんだとこの他校生が!」
えーと、状況をまとめますと。小柄な男の子が、この銀髪さんを日頃の恨みを込めてふざけて転がしてみたらうっかり俺が踏んで止めてしもうたと。んで、この銀髪さんはこの学園の会長さんだと。
うん、脇役から死亡フラグですか俺。
「えっと、すみません…まさか、人が転がってくるとは―………」
「おい」
銀髪の人にがっしりと肩を掴まれ、見つめられる。ん、ちょっと待ちたまえ。なんか深雨が前にこんな漫画書いてましたよ?!
で、王道ならこれから俺はこんな人に下僕とかパシリに―…
「………もう一度」
「は?」
「俺を踏みつけるがいいそこの平凡」
周りが、今度こそ凍る。
俺の両肩を掴み、マジ顔で偉そうに言い放ったこの人はいかにも俺様くさいのに。
………ええと、こういうのは
「踏まれるのがこんなに素晴らしいっつーかイイとは思わなかったぜ……。たぶんお前限定だろーが」
「いやいやいやしっかりしてください特に頭を」
「言葉も良いな、もっと蔑め」
M様ですか………?!
―――ありきたりなモノローグを加えるならば、この出来事により脇役だった俺の立ち位置はがらりと変わってしまったのだった――。
深雨ちゃん助けてぇぇぇっ!!!!
―――――――
「むむ?」
「深雨―?どったのぉ?」
「いえ、兄に受け攻めフラグが立った気がしたのです」
「?」
《続く》