わがままなんかじゃ、

※アニメ最終回後捏造
デレ本注意!







――記憶が戻った人々の中で、一番に小鳩に連絡を取ったのは堂元だった。
医者という職業ゆえに抜け出してこれないので、一度弁護士事務所に戻って来た藤本から小鳩の電話番号を聞き出して電話をかけたのだ。




『――そっか、じゃあ今すぐにはこっちで暮らせないんだね』
「…はい、しばらくはお祖父さんの残してくれたお家にいようと思います」
『うーん……清和はなんて?』
「はい、一度事務所に戻って、また来てくださるって言ってくれました!」
『……それだけ?』
「?」

受話器口で首を傾げているであろう小鳩を思い浮かべた堂元は思わず苦笑した。本当にあの男はわかっているのかわかっていないのか。

『小鳩ちゃん、寂しくない?』
「……え?」

彼女がいなくなった数年間、何故連絡を取ろうと思わなかったのだろうと自分に疑問を抱いたのは堂元だけではなかった。しかし、その疑問は彼女の身の上話で吹っ飛んでしまっている。
彼女は、肉親と言っていい肉親がいない。両親は亡くなり、可愛がってくれていた祖父も最近亡くなったと聞いた。
そんな彼女を独りにするのが堂元はどうしても不安で。

「寂しくないです!大丈夫です!ありがとうございます、堂本さん」

だから、電話口から聞こえる声が震えていることにも気がついた。

『…小鳩ちゃん、無理しなくたっていいんだよ?寂しかったら素直にそう言えば、清和も――』

「……俺がなんだ」




―――――………




わがままは言えないと思っていた。

自分の願いは叶っている。

ずっと行きたかったところ。

ずっと一緒にいたい大切なひとのいるところにやっと辿り着けた。
これ以上の幸せがどこにあるだろう?
だいすきなひとのそばにいることを許されたのに、これ以上何を言えるだろう?

だから、‘もっと’を望んでしまう自分はわがままなのだと、そう小鳩は思っていた。

――――けれど




「……藤本、さん…?」


今ここに居ないはずの藤本が、目の前にいた。
受話器口から苦笑しながらまた電話するねという堂元の声に返事をし遅れてしまう。

ただ、呆然と受話器を手に立ち尽くしていた。

「…あの、どうして…?」
「…来ちゃ悪いのか」
「そ、そんなことありません!嬉しいです!」

駆け寄ってぶんぶんと首を振れば、藤本は微かに口元を緩めたが必死な小鳩は気づかない。

「今の、堂元からか?」
「はい、心配して電話をしてきて下さったんです」
「………」

自覚をしてからの藤本は、小鳩に対する感情にわりと素直だった。
――たとえ電話だとしても親しげに堂元と話す小鳩を見て湧き上がるこの感情を認める位に。

眉を潜める藤本に小鳩は首を傾げる。

「藤本さん?」
「――夏には、此処を出られるか?」
「え?」
「引っ越しの準備とかあるだろ、だから、夏まで休みを取って来た」

「えぇぇぇぇぇっ!?」
小鳩は目を見開き叫ぶととわたわたとあわて始めた。

「弁護士さんていぞがしいんじゃないんですか?!それに夏までってまだ1ヶ月も――」
「ちょっと落ち着け」

ぽすり、と。半ばパニック状態な小鳩の頭に藤本の手がおかれる。確か、前にもこんなことがあったような気がして藤本は苦笑を浮かべた。

「まだ此処で調べる事もある。それと取れる休みを合わせたら丁度1ヶ月になっただけだ」
「…藤本さん、ありがとうございます!」
「礼を言われることはしてない」

なんでもない事のように藤本は言うが、きっと大変だったんだろうと小鳩はわかっていた。しかもこんな田舎を往復して来たのだから、疲れているに違いない。それなのに再び自分の元に来てくれたことに、小鳩は胸が暖かくなった。自然に笑顔がこぼれ落ちる。

「引っ越しですかあ、またあそこで暮らせるんですね…」

ほうと安心したように息を吐く小鳩だが、藤本は不思議そうな不満そうな顔をした。

「…何言ってんだ、お前」
「え、だってあそこだったら藤本さんのマンションにも通えますし――」

「お前の行きたかったところは俺なんじゃなかったのか」

まさか藤本からそのことを言われるとは思わなかった小鳩は驚いて、再び藤本を見上げる。そんな小鳩にため息を吐いて藤本は言葉を続けた。

「辿り着いたらそれで終わりか?」
「ち、違います!ずっと一緒にいたいです…!!」
「…なら、引っ越し先は違うだろ」
「もしかして…」
「俺の部屋だ」

その言葉と一緒に、しゃらんと手に何かが渡された。銀色に光るその鍵がなんなのか理解したとたん、じんわりと何かが胸にこみ上げてくる。

「…わがままじゃ、ないですか…?」
「――こっちは何年待ってたと思ってる。それくらいわがままでもなんでもない」


自分の目尻に浮かんだ涙を指先で拭いながら苦笑する藤本に、小鳩も必死で笑い返す。

ああ、そうだ。
このひとはずっと自分を探していてくれたのだ。
ずっと、どこにいるかも、もう会えるかもわからない自分を忘れないでいてくれたんだ。

「藤本さん…」
「…それ、いい加減やめろ。名前でいい」

涙を拭っていた指がするりと頬を撫でる。多少ためらいながらも、小鳩は幸せいっぱいな笑顔で、藤本の手に自分の手を添えて、呼んだ。





「―――清和さん」





( 小鳩 )





いとおしそうに返ってくる自分の名前の優しさがこもった響きに、幸せを感じた。













end

アニメ最終回にたまらなくなり書きました(笑)
なんかホントにどうしようもないデレ本ですみません…;
しかし文でも堂元がかわいそうになってしまいました……orz
すみません…。


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