委員長にヘルプ!



俺の立ち位置は、漫画とかに出てくるサブキャラよりちょっと上のポジションだった。

腐女子で変わり者でちょっと過保護な美人妹を持つ、ややシスコンの、イブキの幼なじみでケイの親友。
人当たりはよくて、いつも二人を中心に起こるトラブルに巻き込まれてしまう不幸体質。
勿論、美形と言われる顔じゃ無いから長編漫画とかでよくあるサブキャラ同士の恋みたいなフラグは立たない。
ただ、風紀委員長だけは何かと俺を気にかけている。
――それが、俺、夕凪晴架の周りからの認識、評価、印象。


だった、のに!!!





『兄さん、今すぐ学校を辞めなさい』

「み、深雨ちゃん?」

悪夢の始まり文化祭から一週間後。事の次第を最愛の妹に相談してみて、てっきりやわらかい励ましの言葉が返ってくるかと思いきや、電話からの一声は俺をぴきーんと凍り付かせてしまった。

『そういう展開は兄さんの正体や名前を突き止めてそれこそ上から下まで舐めるようにねちっこく調べ上げ、派手な登場で兄さんの学校に飛び込んでくるパターンです。挙げ句の果てに絆された兄さんとうふんあはんな展開になったりもするんですよ?そんなのダメ、ゼッタイ』

「いやいやいや!深雨ちゃんなんか具体的すぎだからっ!
…わかった、学校は辞めないけど手は借りるから」

『…兄さん』




周りがケイやイブキを中心に回る中、ただ一人いつも俺を気遣ってくれるあの人の顔が浮かぶ。
迷惑を考えたら、あまり手を借りたくない、でも、仕方ない。


「お願いするから、風紀委員長にさ」









――風紀委員の使う教室は、今は空き教室である美術室だ。
教科の美術が消え、男子校であるこの神崎高校には元々美術部が無いので、いつも委員長が使用する教科の候補になっている。
その扉の前に立って、俺は両の拳を握りしめた。すうと息をすって、ドアノブに手をかけたその時。


「ナギ?」

「あ」

教室に居るはずだった人物の声が、背後から聞こえて思わず振り返る。


「風紀委員に用事か?」


ふわり、

いつも仕事の鬼とかクールだのビューティーだの言われている冷たく凛々しい顔が綻んだ。いつもは冷静な瞳は今は優しく細まっている。

――貴緒 夏野先輩。
規律に厳しい神崎高校の風紀委員長の皆から畏怖の念を抱かれている人。
最初はイブキ辺りともめてばっかりでその内この人も生徒会みたいにイブキかケイに絆されるのかと思っていた。
しかし、何故かこの人はイブキでもケイでも無く、俺に心を開いてくれて今では俺だけに甘い。怖いくらい、甘いのだ。
名字からとったナギという愛称もこの人は俺にしか使わない。

ぶっちゃけ脇役としてぞんざいな扱いが多かったので、嬉しくなかったと言えば嘘になる。

そんな訳でこの人は尊敬すべき先輩であり友人であり、兄貴分なのだ。




「ちょっと…ご相談したい事が」

躊躇いがちに言えば、貴緒先輩はちょっと眉を寄せて不機嫌そうな声で呟くように、言った。

「…聞いてる。…蓮幸学園だろ?」「あう……、はい」

やっぱりこの人は情報が早い。

とりあえず入れと促され、教室の椅子に向かい合うように座ると貴緒先輩はぽんっと俺の頭に手を乗せて、笑った。

「なるべく他校生は近寄らせないように校内巡回の時に注意しておく、それにもし来たら望み通り踏みつけてやればいい」

ああ、踏んで発言まで流れてるのか…!

恥ずかしいやら情けないやら。

あれ以来あの銀髪は姿を見せないけれど、とてもなく不安だ。だいたいなんで踏まれて開花するんだ!聞いた話じゃバリタチだったって聞いたぞ…!



「ナギ」

「貴緒先輩…?」

「心配、しなくていい。なんとかするからさ」


「ありがとう、ございます…っ」

…ああ、こんな兄が欲しい!



そう感動に浸りながらキラキラした目で貴緒先輩に尊敬の眼差しを向けていた俺は、気づかなかった。




校門をぶち壊して、突撃してくる、ド派手なデコトラに…!!!







《続く》

2010.05.11




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