欲しいものは、あまりにも遠い。けれど手を伸ばす勇気さえ、俺には無くて。ただ、あの子を見つめるあいつをずっと見続けていた。 文化祭から数日後、ぼんやりと窓から例のアイドルを気にするように見つめていた平野を見つけた。 「良かったね、平野」 「高村?」 「大人気だったろ、アイドル」 「ああ、桃頑張ってたしな!」 にこりと笑うその顔は幸せそうで、胸が痛かった。悟られないようにいつも通りの平静を保ちながら口を開く。これは、前から言いたかったことだ。 「平野も、だろ」 「へ」 「平野も頑張ってたろ。 結果的にステージに立ったのはあの子だけど平野だって舞台作りとか練習やってたし」 ずっと見ていたし、たまに手伝った時もあった。一生懸命責任を果たそうとする姿に、正直惚れ直したくらいだ。 「そ、そうかな…」 照れくさそうに、平野は笑う。 その笑顔はいずれ、あの子だけに向けられるんだろう。 そして、俺はずっと後押しをした自分を呪い続ける。 元から遠かったものを遠ざけたのは俺自身。 「でもな、高村」 「何?」 「俺が桃にアイドルやってくれって頼めたのは、高村のおかげなんだ。 お前がこだわりって事に関して言ってくれたから、俺も心が決まったんだ。だから、ありがとな!」 ―――ああ、やっぱり、俺は。 叶わなくても、平野が、好きだ。 「ま、平野のアイドルショーも見たかったけど」 「あ、あのな…!」 《かなわなくても、お前が俺の》 (たったひとり) end (戻る) |