藤君は中々強情なところがあると思う。
だって、僕がこうして看病していてもちゃんと聞いてくれないんだから。
「薬なんて飲みたくねぇ」
「…だって、これ飲まないと治らないよ?」
「風邪なんて飯食ってちゃんと寝れば大丈夫だろ」
「藤君はいつも寝てるからあまり意味がないかもしれないでしょ!」
「…アシタバ、お前今さり気なく酷ぇ事言ったな」
「あ、ごめん…!」
「悪いと思ってんならそこの林檎の皮むいてくれ」
「……………あのね」
むすーっと拗ねる藤君に苦笑して林檎をむきながら、僕は頭の中でどうやったら藤君に薬を飲ませられるかぐるぐると思考を巡らせていた。
――――昔からたまに風邪を引くことはあっても熱が出るまでというケースは実はこれが初めてで、周りのみんなはどちらかといえば僕が風邪で寝込むタイプと思っていたらしく藤君が風邪で熱出して欠席と言ったらそれは驚いていた。
……違う学部の女の子達からお見舞いを貰った時は流石にちくりと胸が痛んだけど、中学高校のころいに比べたら僅かなのでありがたく貰っておいた。因みにそれが今藤君が食べてる林檎なんだけど、後でちゃんと教えればいいかな。
「…藤君、やっぱり薬飲まないとダメだよ?大学も単位とか大事なんだから……」
それでも藤君は聞いてくれない。無言でむしゃむしゃ林檎を食べていて、なんだか僕が頭痛くなってきた…!!
「……えっと、ほら、粉薬だから飲んだ後すぐに甘いものとか食べたらいいんじゃないかな?!」
苦し紛れにそう言うと、藤君がぴくりと反応した。
「…甘いモン?」
こ、これはいけるかもしれない…!!
「ほら、お見舞いにもらったもの色々あるんだよ!果物とか美作君が持って来てくれた水羊羹とか!あと鏑木さんが焼いて来てくれたケーキ…」
「あれはケーキじゃなくて炭だろ」
「ええと、ほら!ケーキが食べれなかったらクッキーもって…」
「ありゃセメントだ。噛めなかったぞ」
「ああもう…!!」
なんでうまく会話を持っていけないんだろう僕…!
「アシタバ、俺それじゃねぇ甘いモンが食いたいんだけど」
「……え――――んむっ!?」
いつの間にかベッドから身を起こしていた藤君に引き寄せられて口唇を重ねられた。
ついばむくらいならまだしもなんと深い方で、僕は頭が真っ白になりそうな感覚にひたすら耐えた。
「ふぁ…っ」
「……はっ」
「ぷはっ……ふじ、く…」
口唇が離れると、藤君はニヤリと笑った。まだ息の荒い僕の口唇に指を乗せて耳元で囁く。
「良薬口に甘しってやつ?」
「〜〜〜〜〜っ!!」
ほ、ほんとにもう怒った…!
「…藤君、口開けて」
「は?」
粉薬の口を開けて、ペットボトルを片手に持つ。
珍しく眉を寄せて怒る僕に呆気にとられたらしい藤君は、ぎしりと軽く後ずさった。
僕はそれににじりよる。
……僕は今からかなり恥ずかしいことをしようとしているって自覚はある………でも、もう怒った!これは何が何でも飲ませるしか無い!!
「苦くても、我慢してね…!」
瞬間、なんともいえない苦さが口の中に広がった。そのまま藤君の両頬を手で挟んで、その驚いた顔に唇を寄せる。
「おい、ちょ、ま、アシタバ、ストップ――!!」
知らなくてもいいこと
◆数日後◇
(美作、アシタバが…アシタバが…いつも俺からのアシタバが…!!)(あ?どした藤?)(…普段大人しい人間ほどスイッチっていうかキレると凄いってよく言うよね、…怖いなあアシタバ君)((お前が言うな))
end
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