(ちゃんと、好き) |
▼ ※本誌ネタバレ&十年後未来捏造 猫森は不思議なやつだ。 あらかさまに嫌みを言われようが人間だからと陰口を叩かれようが、一切気にしない。むしろ、そう言ってきた奴らに普通に笑いかける。 それが猫森の良いところでもあり、俺が惹かれた部分だ。 けれど、十年たった今は正直面白くない。 「猫森」 案の定猫森は屋上にいて、寝転んでいた。 しゃがんで上から顔を覗きこむと、すうっと澄み切った瞳が開く。 「……からす、ま?」 小学校の時からずっと猫森を追いかけて、追いかけ続けてこの高校まで来た。 猫森は相変わらずに明るくて、昔より破天荒じゃなくなったが気取ったりしないし、妙に女らしくしないところは変わらない。 変わったのは、周りと、俺と猫森の関係。 「…アイツ等が探していた」 「あ、おやびん達か?」 変わらない猫森は、普通に友人としてしかあの男達を見ていない。 中学に入ってから、周りの奴らの猫森を見る目が変わったのに猫森は気づいて無い。 ずっと猫森が好きで、人間の学校に通ってまで追いかけて来た俺にはすぐわかった。 同時に酷く憎たらしくなった。 誰よりも先に猫森を女性として意識したのは、俺だ。 幼稚園の頃からずっとずっと、猫森を想ってひたすら追いかけて来たのも、俺だ。 なのに、後から現れた人間達は成長していく猫森を異性として意識してゆく。 神の事等何もわからないくせに。 猫森のことを、何も知らないくせに。 …わかってはいる、これは俺の八つ当たりだ。 十年たっても、俺は猫森が絡むと冷静では居られなくなる。 十年前のあの、昇級試験の時のように。 神の名が恥ずかしいくらい、汚い感情だらけで。 「烏間、どうかしたのか?」 「猫森?」 寝たままの猫森は覗きこむ俺の顔を見て、笑いながら手を伸ばしてきた。そのまま、俺の頬を軽く両手で挟む。まるで安心させるみたいなその行動に、目を見開く。心を読まれたのかと思った。 「大丈夫だぞ、タマが特別に好きなのは烏間だから。 パパ上もジジ上もママ上も、おやびんもトロ助も六花も、キビマロも、マンゲツも、みんな大好きだけど。 パパ上とママ上みたいにずっと一緒にいたいのは、烏間だけなんだ。 だから、悲しそうな顔しないで笑えっ!」 そう言って猫森は笑う。 あの頃と変わらない飾らない笑顔に胸が暖かくなる。 そう、今は猫森がこうやって俺にちゃんと答えてくれるから、切なくも苦しくもない。 やはり高校に入ってすぐに好きだと言っておいて良かった。特別な好きだと理解させるまでが大変だったが。 「ああ、俺も、猫森が好きだ」 頷いて、かがんで、未だに変わらない揃えられた前髪をかき分けて唇を押し当てる。 ずっと、見ていた。 ずっと、想っていた。 ずっと、追いかけていた。 …ずっと、欲しかった。 まだだるいがみんなを待たせたら悪いからと渋々起き上がった猫森の手を引きながら屋上からの階段を降りる。猫森は寝起きが悪いから心配という口実でさりげなく手を繋ぐのにも、なんとか慣れた。 「あ、そういえば」 「どうした?」 「六花が言ってたんだけどな、特別だったら名前で呼んだ方がいいのか」 「………!」 思わず目を見張って猫森を凝視してしまう。それはずっと俺も気にしていて、けれど口に出すのは躊躇っていた事だった。 猫森だったら言えば直してくれただろうけれど、俺から言うのはどこか空しくて。 「呼んでくれるなら、俺は嬉しい。ずっと俺も猫森を名前で呼んで、呼ばれたかったから」 「よし!じゃあ行こうアキラ!」 「っ、タマ、階段で走ると危ないぞ」 「にゃはははっ」 「……タマ」 「ん?」 笑顔のまま俺の手を離さずに階段を駆け下りて行く、俺の大切な、恋人に。 足を止めて引き寄せて、軽く唇を合わせた。 (神様だろうが人間であろうが、好きな事には変わりない) end ---------- ベタで未来捏造でなんだか本当にすみません…! 鳥猫大好きです。 〔戻る〕 |