※本誌ネタバレ
「…人吉君」
「ん?何すか宗像先輩」
君と友達らしいことをしたい。買い物に行ったり、遊んだりしたいんだ。
そう言った宗像を連れて街へ出たものの、どうしても善吉はこの人通りの少ない公園から出られずにいた。
…仕方が無い、顔には出さないものの、宗像が怯えていたからだ。
今まで殺さないように人を見ずに生きて来た彼は、まだ人を善吉しか見たことが無い。
そんな彼はきっと人ごみが怖いのだろう、いくら自分がいるからといっても彼は異常で、殺人衝動が有ることに変わりは無いのだから。
しかし彼は、善吉をじっと見るとベンチから立ち上がる。
「そろそろ行こうか」
「…大丈夫、なんすか?」
「君がいるから平気だよ」
「…っ」
思わず顔が熱くなった。
この男はこういう事を素面で言うからたちが悪い。
いや、まあ異常なのだからという言葉で片付けてしまえばそれで終わりなのだが、とにかく彼は素で恥ずかしい事を言うのが多い。それは友人として彼と付き合うようになった善吉しか知らない事だけれど。
「じゃあ、まずは何か食べに行ってみますか」
「うん、…善吉君」
「ぶ!?」
気を取り直してさあ行くぞと立ち上がった所でのまさかの不意打ちにつんのめって転びそうになるが、なんとか踏ん張って耐えた善吉は勢い良く振り返る。
「友達は、名前で呼び合うものなんだろう?」
だから実践してみたんだよ、と、宗像はつらっとしながら言う。
「まあ、そうっすけど…」
「だから善吉君も呼んでよ、僕の名前」
何故だか善吉の胸はさっきから五月蝿い。ばくばくとせわしない鼓動に、思わず胸を片手で抑えた。
「…形先輩」
「うん、嬉しいよ善吉君」
やっぱり君は殺したくないよ。
そう言った宗像の表情が、笑顔に見えたのは錯覚なのかなんのか。
赤い顔を必死で隠そうとしていた善吉には、それを確かめる余裕が無かった。
「(本当は善吉君とは恋人にもなりたいんだけど、今のところは友達でいいかな)」
君と僕の友情事情
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善吉一筋な宗像先輩が大好きです。