現在俺の頭の中のBGMはこれだ。
曲名とか歌詞はうまく言えないがあれだ、男は狼なのよ―気を付けなさい―ってやつ。サビがエスオーエスってね、乙女つか脇役のピンチっていうね!!



「な、な、なんで…!此処、二階なんですけど…?」

「あのくらいちょろいもんだ、ちょっと手を痛めたがな」

いやいや二階まで自力で登ってきてチョロいってどんだけなんですか?!
しかし、ふらふらと降る銀髪こと御条さんの右手は少し赤くなっていて、明らかに痛そうだ。
だから、お人好しな俺の性格からくる言葉が、ぽろりと出てしまった。


「…大丈夫、ですか?」


って、うわああああ何言っての俺!此処は逃げるとこなのに!いや、ぶっちゃけ腰抜けてるというかビビって動けないんだけど、だからってなんで心配なんかしちゃうかなチクショウ!

「……」

途端、御条さんは驚いたように目を見開いた。
するとゆっくり表情を元に戻すと緩やかに口角を上げた。うっ、なんか今どきっとしたような……。


「ああ、やっぱりだな」

いつの間にか目の前にいた御条さんの手が顎に伸びる。つ、と、男のものとは思えないくらい綺麗な人差し指が俺の顎に触れてくっと上に押し上げた。


「お前にいたぶられるのも好きだが、普通にお前と関わるだけでもかなりイイ」

艶やかな笑顔に、意味がわからなくなる。ただのMじゃないのか?だって、こんな言い方だと誤解してしまう。ただ自分がMだから俺に構っているんじゃなくて、まさか――。


まてまてまて、まだ一度しか会っていないはずだ。なのに、なのになんでだ、どうして。



「なあ、ハルカ、

俺は、お前に惚れたみたいだ。」


ぴしゃーん、と。
頭の中で雷鳴が響いた。

なんと言った?
この美形さんは、今、平凡でも王道でも無い、脇役な俺に、なんて言った…?!



「俺と付き合えよ、ハルカ」

「ふ、ふざけんな!」

ばっと思いきり手を払いのけて一歩下がる。払いのけた拍子に怪我してない方の手を叩いてしまったけれど仕方ない。
熱が上がるどころが下がっていく感覚に襲われる。

「じょ、冗談言うな!自慢じゃないけどずっと女にも男にも告白されなかった奴なんだぞ俺は!
大体なんなんだよ!要があるならあんなへんなデコトラとか作んなよ馬鹿だろ?!」

混乱と動揺が暴言となって口から滑り出てしまった。

だいたいいくら一目惚れったって、いくらなんでも俺は無いだろ…!

………というか、あれ?
なんで俺は、こんなに怒ってんだろう?

いや、普通に冗談なら冗談って流せばいいのに必死にムキに反論して罵ってしまった。
はっと自分が言ってしまった事に気付き後悔した。
御条さんは何故か俯いて肩を震わせていた。
……酷いことしたな。理由が自分のことなのにわからない上に人に暴言を……………ん、暴言?


「……こ、こ、こ」

こ?

「言葉責め最高……!!」


ぎょえああああああ!!やっぱり悲しんでなかった喜んでるよ!悦んでるよ、変態だったよこの方あああああぁぁぁ!!
口元押さえて頬染めてる姿はさながら恋する少女のようと呼べなくはないがハアハアという荒い息遣いがそれをぶち壊している。

もう色々と俺の許容範囲が限界で、走って逃げようと一歩後ずさる。


でも、遅かった。



「んっ!?」

腕を捕まれて引き寄せられ、振り払おうと思った時にはもう既に唇が塞がれていた。

「ふ、はっ…やめ…!」

「やめない」



もがこうとしても案外しっかりした腕に囚われてる上にいつの間にか壁際に追いやられていた為に身動きが取れない、何度顔をそらそうとしても顎を捕まれて、違う角度から何度も深く口付けられる。

「ふ…っ、気持ちわ…んんっ」

「俺はその言葉も気持ち良いけどな…んっ」

「むぅー!!」

もうやだ勘弁してくれぇぇぇぇぇっ!!しかも、意識はぼうっとするどころがショックで逆にしっかりしてる。おまけに舌も入って来て、もう涙目だ。
ぴちゃとかくちゅとか表現するのも恥ずかしい効果音が教室に響く。

「むぅ…ふぁっ」
「…ハルカ」

御条さん…いやもうこの際ドMでいいよ、あいつの舌が口の中を這い回るように暴れる。歯列の裏、頬の内側、そして最後に俺の舌を絡めとる。捕らえてくる。囚われる。

最悪だ。最低だ。あんまりだ。ただの脇役の一人にしか過ぎなかった俺が、どうして。

いや、本当に最低なのは。

「ん…っなんだ…、舌動かして結構ノリ気じゃねぇか」

「……ふざけ…んな」

素直に気持ち良いと思ってしまった、俺だ。
わけのわからん衝動と感覚に支配される。
やだ、こんなの俺の意思じゃないのに。違うのに。
いや、わかってる、言い訳に過ぎないことくらい。


(―――これは)


「…なあ、御条さん」

「…ん?」



嬉しそうな、声音。



自然と手が伸びて、同時にダメだとサイレンが聞こえる。まだ会ったばかりの人間なのに、ダメだって。次の言葉を言ってしまったら、長年の脇役ライフの終わりが来てしまう。でも、そのサイレンはすぐにかきけされて、俺の指が微笑むあいつの唇をゆっくり開けた。


「…噛みきらない程度に、咬んでいい?」



(―――俺の、意思だ)



御条緋鷺は驚いたふうもなく微笑んで、俺の腕を放すとその場にしゃがんで俺を自分の上に覆い被せるかのように引き寄せた。

そして、ゆるやかな手付きで俺の首に腕を回す。



「お前の好きなように、好きに、いたくしろ」





……深雨ちゃん、お兄ちゃんは道を踏み外したようです。



続く




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