僕をすくいあげることば




自分の見た目が嫌いだったというのは誰にも言ったことが無い僕だけの秘密だった。





――昔からあだ名は王子様。




それは日本人なのに血筋の遺伝からか兄弟の中で僕だけが金髪の碧眼、色白で生まれて来てしまったのが原因だ。
兄さんや弟、両親は普通の肌色に黒髪黒目。僕はフランス人の祖父の血を強く引いたんだよと祖母や両親に言われて来たけれどずっとその見た目の違いは僕の中で引っかかっていた。


性格が見た目に添う添わないは特には気にしなかった。まあ人当たりは良いし、女の子や子どもには優しくしてるし、一応学力やスポーツも人並みよりちょっと上だ。それで王子と言われるのは仕方ないとは思う。でも。

やがて、思うようになってしまった。僕の性格は周りにとっては見た目の付属品に過ぎないのでは無いかと。


スポーツや勉強が出来るのは王子様だから。
優しいのも周りに好かれてるのも王子様だから。
この見た目にこの性格は"あたりまえ"。


そう思ってから、毎日が重くなった。僕だって弱音を吐き出したい。苦手な人だっている。

でも半分は被害妄想だと自覚はしていた。実際この性格なのは素だし、ハッキリ物を言えないのは自分の責だ。

僕は、ただこの疎外感を与える見た目が嫌いで浸りたいだけ。こんな浅ましい人間の何処が王子なものか。そう整理を付けたけど、ずっと心は苦しくて重かった。




だけど、世界は変わる。




ある日届いた間違いメール。絵文字も顔文字も使ってないちょっと乱暴な口調のそのメールに丁寧に返信をしたら、お礼では無く暇だからちょっと付き合えという返信が帰って来てかなり焦ったのを覚えている。
そうやってやりとりをしているうちに、いつの間にかとても楽しくなっていて、数ヶ月後は電話までする仲になってた。それが、善だった。

僕は名前を教えるのが少し嫌であえて伏せていたけど善はすぐに教えてくれた。
少し冷めてるようで、でも強気で意地っ張り。そしてなんだかんだで誰よりも友達や仲間に優しいとても良い子で、会った事が無いのに前から知ってる子とやりとりをしているようだった。

「あんたって王子っぽいからさ、王子って呼んでいい?」

だから、見た目を見たことが無い善にそう電話越しに言われた時、涙が出てしまった。


――ああ、僕は嬉しかったんだと。
要は視て欲しかった。
見た目じゃなくて、……見た目から解る僕じゃなくて、"中身から僕を知って欲しかった"んだと。



それからは何故か心が軽くなった。善とももっと遠慮なく話せるようになったし、生徒会のみんなにもちょっと厳しく注意できるようになった。



善は、僕の初めての親友。


だから善が困ったら会いに行ってでもなにか力になろう、そして支えになろう、無意識のうちに僕にそうしてくれていたように。そう心に決めていた。

そして叶うなら、一緒に学園で色んな思い出を作りたい。それは多分無理だとは解っていたけど。僕はもう三年だし、善は今の学校が楽しいみたいだから、こんな親衛隊やら裏と表の生徒会とかがあるところに来てみないかなんて言える筈がない。



だから―――これは奇跡。



「――立帝に?」

「ああ、ほら前に話したゴタゴタあったろ?それでさあ……つか王子そこ知ってんの?」

「し…知ってるも、何も…」

「うん?」

「そこ、僕が通ってる学校」

「…………はい?」



力になるから。
これからちょっと大変な事になるかもしれない。りゅうくんとか芥くんにちょっと懐かれてるっぽい上に僕と親友である善。しかも"この先"を考えたら――。

でも、大丈夫。善は強いし、僕ももう大丈夫。
直接会ってもメールや電話の時もあまり変わらなかったし。

だから、頑張ろう善。


それとね?



「ごくろー、王子」




中身から知って見た目もこうなんだなって思って言ってくれたあの言葉。

出会って初めて口にしたあれ、僕がどれだけ嬉しかったか、君は知らないんだろうね?








end






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