めだか | ナノ

執着VSヤンデレ―人吉善吉の憂鬱―



※本誌・第60箱ネタバレ
 シーン捏造
 宗像壊れ気味につき注意!









「女の子の愛はだってだって、痛みよりもずっとずっと強いんだから――」


「へえ、それは面白い冗談だね」


「へ?」

カカッと勢い良く江迎と善吉の間を遮るように壁に何かが突き刺さった。それを見て善吉は目を見開く。以前これを見た事がある。それこそこんな絶体絶命な状況で。

「――大丈夫かい、善吉君」

「む、宗像先輩!?」


突然後ろから引き寄せられ江迎から引き離される。
善吉を庇うように間に立った宗像はきつく江迎を睨みつけ、善吉の手を握りしめた。

「ねぇ…球磨川さんにやられた異常がなんで私の善吉に触るの?ねぇ、離しなさいよ?こんなもので私が驚くと思う?」

「っ」


そう、壁に突き刺さったのは宗像の暗器だ。
しかし江迎は気にしたふうもなくニッコリと笑う。その笑顔は勿論宗像ではなく自分ただ一人に向けられていて、善吉はぞくりと改めて背筋を駆け抜けた悪寒に身を震わせた。



「大丈夫だよ、善吉君」


すっと震えた心に染み入るような優しい声が響く。驚いて顔を上げれば優しい笑顔を浮かべた宗像が善吉に見つめていて、どくりと自分でも意味がわからないくらい心臓が高鳴った。

でも駄目だ。危険過ぎる。



「宗像先輩、でも相手はあの球磨川と同じマイナスの…!!」

「ほらあ善吉だって心配してるじゃない。男の子の心配してるのも嫌だけど。
だいたい球磨川さんに適わなかった貴方が私に張り合える訳―――」

「あるんだよ」




宗像はスッパリと言い切ると、くっと顔を上げた。
その表情の真剣さに善吉が息を飲み、宗像がすうっと息を吸った。そして――――。







「――だいたい君は途中から出て来たくせに生意気なんだよ。僕だって十三組からだから人の事はいえないけどさ。本当は人は殺したくなんかないけど君は殺したくて殺したくてしょうがないんだよね。だって君は僕の、僕だけの、大切で大好きで愛してやまない善吉君を盗ろうとしてるんだから。いや盗られる筈は無いね。何故なら君の勝手な少女漫画のような妄想よりも深くしっかりと僕と善吉君は愛という絆で繋がってるんだ。黒神さんとか黒神真黒とか元破壊臣とか雲仙君とかが未だに違うとか五月蠅いけど、誰がなんと言おうと君が何をしようと真実(ほんとう)の愛の形は僕と善吉君の間にもう既にあるのさ。
ほら、だって君は知らないだろ。君は本当に少女漫画のような朝パンでぶつかって胸キュンみたいな出逢いだったけど僕と善吉君は違うからね。最初に会った時は人だから殺したくなくて殺さないようにしようって思ってたし、何よりいきなり僕の目の前でカッコよく脱いでくれたからね。君見たこと無いだろ善吉君の上半身裸。細身なのにしっかり筋肉が付いてるんだ可愛い健気な努力の結晶だよね。まあそのうち僕は下半身も見る事になるだろうけど。そうして闘ってるうちに本当に殺したくなくなってきてさ嫌われ覚悟で背中に刀とかぶん投げたんだよね。でもそれでも起き上がって僕に向かって来たんだよ善吉君は、見たこと無いだろ羨ましいだろ。しかも僕の殺人衝動にちゃんと気付いて理解してくれた。そして信頼してくれたんだよ。異常の僕を普通の彼がさ。握手もしてくれたんだ。ねえ、羨ましいだろう?君は善吉君手を差し伸べられたものの触れてないからね。マイナスだからって自分だけ善吉君に姫だっこされて特別扱いされたって粋がるなよ殺すよ?ああ話は戻るけどそしてあの後助けに行った僕を心配してくれたりしてね、友達って言った僕を否定しなかったんだ。顔に出さなかったけどとても嬉しかったね。結局あの後ムカついてしょうがない球磨川君にやられたんだけどその時だってすぐに心配してくれて優しくて可愛かったんだよね。
ほら僕は君より愛されてるだろう?だいたい男同士だからこそ禁断ぽくなって愛は美しくなるんだよ。ああ別に異性同士の愛を否定するつもりは無いさ。僕が否定するのは僕以外が絡む善吉君の恋愛模様だけだからね、うん。だからスッパリと諦めてよ。善吉君は君とじゃなくて僕と結婚するんだから。白い家とかベタなものじゃなくて広い日本庭園で一緒に暮らすのさ。二人お揃いの和服を着て夜は勿論朝まで離さないし。僕体力はあるから何ラウンドもいけるしね。それに子供が欲しかったら養子をとる計画とかいっそ名瀬さんに頼んで善吉君を子供の産める体に改造してもらうとかもう色々考えてるし、籍が入れられないなら海外で挙式とか予定も立ててるからね。もう準備は万全なんだ。―――さあ、諦めて立ち去りなよ。じゃないと本当に殺すからね。」

「………」

「…………」


張り合っている。確かに張り合ってはいるが、駄目だこりゃ。

「ふふふ……、じゃあ始末しちゃう前にわからせてあげるわ私がどれだけ善吉を愛してるか。だって善吉は初めて私に手を――」

「言い訳がましいね、じゃあ殺す前に僕ももっとわからせてあげるよだいたい君は善吉君を理解してない――」



べらべらべらべら。
べらべらべらべら。



異常と過負荷の二人組は聞いてる本人がいたたまれない内容の談義を殺気だきらせながら交わしてゆく。


「あ、頭いてぇ………」


「善吉くん、男の子にも女の子にもモテモテねぇ…」

「…お母さん……頼むからどうにかしてくれ」



逃げていた筈の母親に捕まりながらも、逃げる気力の無い善吉はその場にしゃがみ込んで頭を抱えた。





end

(←)


- ナノ -