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(善はそのまんまでええよ
そのまんまでそこにいるだけで、あんたは人の支えになれるんやから、な?)

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雰囲気からかなんなのか柄にも無くりゅうくんと握手を交わしたが、その言葉が少し引っかかった。

「………一年って…同じクラスなのか?」

「いんや」

りゅうくんはふるふると首を横に振った。同じクラスじゃないと言うのならば、なんなのだろう?

「じゃあ――」

「…あ、よく見たら善だ…!」
ぎゅううううっ

「……ひ…っ?!」


気がついたらずしりと背中に重みを感じた。この抱き締められてる感覚はついさっき感じたものと同じだ。まるで大きくて暖かい何かに包まれてるかのような、気持ち悪い筈なのにそうじゃない別の違和感を感じさせるような――。


「芥!放せ!」

「やーだ。りゅうくん以外で初めてこんなにきもちい枕見つけたんだもん。火星人に誓って離さない」なにが火星人だ。なんで火星人なんだ。
じたばたと足やら腕やらを動かし暴れるがやっぱりびくともしない。くそっ、こいつは中身と外見のギャップがありすぎる…っ!

そんな芥と俺をニヤニヤしながら見ていたりゅうくんは椅子に座り直し机に頬杖をつくと、再びにこっと笑った。


「あ―…諦めなさい善君、この子一回気に入ったら何があっても離さないから。スッポン並に」

「…こいつの抱き枕はりゅうくんじゃないのかよ…」


もう面倒で抵抗を止め、体をよじって芥を後ろに回してりゅうくんに向かい合う。
王子には悪いけどこんなとこさっさと出ようと思ってたのに…………なんかもうめんどくさい。
むかつく事に芥はもう満足げに寝てるし。俺を抱きしめて立ったまま。地味に重い。王子はいつの間にか消えてやがるコノヤロウ。

「そうなんだけどねぇ、でも珍しいんだよ?芥が抱き枕にするほど気に入ってたの俺くらいだったからねぇ」

りゅうくんはすっと目を細めて俺を見る。多分好意が含まれているだろうとは解るが他が読み取れない。

――というか、芥は人懐っこそうに見えるけど、違うのか?

これが、そんなに特別なことなのか?……変態で異常だとは思うけど。



「そんなの来たばっかの俺はわっかりません。とりあえずこいつ退けて俺は帰る。寮の片付けとか手続きとかまだ残って――」

言いかけて、止まる。いつの間にか目の前に立っていたりゅうくんが人差し指を俺の口にとんと乗せたからだ。「な…っ」

わけもわからず口を閉じたままりゅうくんを見上げた時、バタバタと慌ただしい足音が聞こえ、バンっとあの馬鹿みたいな豪華扉が開いた。


「りゅーうー助けて―!トシが!トシがいじめるっ」

「待ちやがりなさいこのアホ裏会長。というか誰がトシですか死ね」

「うわ、ひでぇ!だって土方といえばトシでしょ!そしておれは局ちょ「マジでリコールしてやりましょうか」



…意味がわからん。訳がわからん。

不意にぽんと肩を叩かれて振り返るとすぐそばに立っていたりゅうくんが芥のほっぺたをつついていた。…こっちもよくわからない。

「善くん善くん芥パス。ひじか…冥蓮寺くんの前で芥にひっついたらダメ。ほれ、黒糖あげるから」

「はあ…つか何でしっかり沖縄産…」

とりあえず芥を渡すと、慣れているのかすんなり芥を支えた。

「むにゃー…」



「だいたいトシはデレが足りないのデレが」
「黙りやがりなさい普段は死んだ金魚みたいな顔をしてるくせにこんな時だけ元気で腹立つんですよアンタ」
「顔!?目じゃないの?ショック!」
「大変申し訳ありません、殺ります」



つか…なんか、また変なのが増えた。


ギャーギャー騒いでる黒髪の男と赤髪の全く違う印象の無表情の男。りゅうくんと芥の知り合いなんだろうか。ともかく、関わりたくない。これ以上変人と関わったら俺もめでたく変人だ。二人はまだこっちに気付いてないし。


……と、いうわけで。


「おや、善君どこ行くの?」


やっと豪華扉のドアノブに触れられたとほっと息を吐くと、りゅうくんが小声で残念そうに言った。

「あ―、もうめんどいから帰る。じゃな、りゅうくん」

「俺は―…?」

「ああ芥もな…って起きてたのかよ」

「すぴー…」

…なんなんですか、この生き物。

「あ―、構わんでやって、昔からこういうのだから」

「……………うん、わかった」

…もういいよ。考えるだけ時間の無駄だと結論付けると、ゆっくりと豪華扉を開いて廊下に出て、ふと振り返った。


閉まってく扉の向こう側でにこやかに手を振るりゅうくんと眠そうに手を振る芥の姿が、とても記憶に残った。



――やっぱり、只の変人なのか訳有りの変人なのかよくわからない。でも。


同じ変人でも途中から来たあの二人とは何かが違う気がして。


「……疲れた―…」

思ってもないことを、ため息と一緒に吐き出してその場に立ち尽くした。










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