01








ーーーーー

あいがほしい。

アイが欲しい。

愛が欲しい。

哀が欲しい。



言葉を繰り返しても、言い方を変えてみても、理由も望みも変わらない。



例え、それが誰かを傷付け、堕としてしまう事だとしても。


君に、愛してほしい。

君の、愛が欲しい。


――――キミガ、ホシイ




 






――数日前、今まで度々起こしてきた喧嘩の中で、最大の規模のものが起きた。
前からちょこちょこ絡んで来た他校の不良連中が、学校に直接殴り込みに来たのだ。
まあ勿論俺と友達が圧倒的に勝ったが、場と被害が校内全体と関係無い生徒に及んだ以上知らず存ぜぬも出来なくなり、事の原因の俺だけ退学という形になりかけた。

が、そこで、条件を突きつけられたのである。


俺はそれを迷い無く呑んだ。


後悔とかは全く無い。……今まで、誰かに何かを決めてもらった事なんてなかった。それはこれからも変わらない。だからこれは俺が決めた事であって、決して誰かのせいだとかそんなんじゃないんだ。


だから……黙ってくれよ頼むから!


「ダカラッテ!家カラ離レタ遠イ学校二編入スルナンテ、カッテダヨ、ゼン!パパナイチャウ!」

「るっせっえな!だから仕方ねぇだろ!よくわかんねぇけど名門学園だかに行けば俺もダチも退学しなくて住むって今の校長が言ったんだから!つかこの説明何回目だよ…いい加減に解れよっ」

「俺日本語解らないもん!」

「そこだけしっかり日本語言えてんじゃねぇかこのバカ親父!」

頭が痛い。痛くて逆に痛くないみたいだ。ああ自分でも何言ってるかわからねぇ。
とにかく未だに反対してるこの金髪碧眼の若作りなカタコト日本語のアホ親父が五月蠅くて五月蠅くて、ほんとやってられない。

「この馬鹿親……「お前らいい加減にしいや!」

「あだっ」
「イタッ」

ギッと睨みつけてやろうとしたら、いきなりスパコーンと頭に何かが直撃した。そりゃあもう素晴らしいくらい気持ちいい音を立てて。

「なんかぎゃあぎゃあ騒いどると思たら親子して何しとるんや、みっともない」

「お、オフクロ…」

「…レ、レイカ…」

そこにはフライ返し片手に仁王立ちで俺と親父の間に立つ短髪の男っぽい顔の美女……もとい、俺の母親、広聡 玲華。
俺はどちらかと言えば金髪碧眼プラス童顔な親父よりも、この母親によく似ていると言われる。

キリッと整った気の強そうな(いや、実際すげぇキツいんだけど)顔立ちに男並みに高い身長、すらっとした身のこなしに質の良い真っ黒な髪。口調がなんか男口調と関西弁混ぜたみたいなのが玉の傷だが、それでも30後半にしてこの若さは凄いとよく言われる自慢の母親だ。

……絶対に口に出したりはしねぇけど。


「アンタも見ててうっとおしいねん、女々しいったらないわ。善が決めた事なんやからウチらがぐだぐだ言うてもしゃーないやろ?」

「レイカ、デモ…!」

それでもしつこく食らいつくバカ親父に俺ももう一度怒鳴ろうと顔を上げる。……が、…必要が無かった。


「…血縁上アンタは善の父親やけど、戸籍上は善はウチの一人息子や、ウチは唯一の親として善の意見を優先したい思ってんねん」

「だ、ダカラ、ケッコンヲ…」
「それは嫌やって何度言うたらわかるん?」

「…ごめんなさい」

童顔男の胸ぐらを掴み上げ、にーっこりと素晴らしい笑顔を浮かべる、魔王が、そこにいた。

「……うわ」


ベタッと思わず壁にへばりついて黒く毒々しいオーラから離れた。
…最強の不良が聞いてあきれるが、仕方が無いんだ。俺はプライドよりも男の名誉よりも命が惜しい。めっちゃ惜しい。

「ん?文句あるんなら言うてみ?ホレ」

ギリギリギリギリ


あ―……………首締まってる締まってる。


「レイカ…!シ、シニマス…!」


……………もう解るだろうがうちの母親は恐い。
怖いなんて生易しい物じゃ無い、 恐い のだ。
だからなんでこいつもとい父親と結婚しないで別に暮らしてるのかも、なんで料理しないのにフライ返し持ってるかも突っ込みたくても突っ込めない。
つーか俺がこんな不良になったのは後悔は無いとしてもこの二人が一因だと思うんだが…。


「で、善」

「はいっ」

「準備は?明日なんやろ出発」

「ああ、大丈夫。あとは出るだけ」

「…気張って行きや、なんかあったら電話な。でも、」

「わかってるって、自分で判断できる限りは人に頼らず自分で色々決めろだろ」

「そう、わかってるやないの」

「アンタの息子だからな」


これからどうなんのかは解らない。でも決めた以上は戻れない。事件に巻き込んだ奴等には合わす顔が無いし、会いに行く資格があるとも思ってないし。

その学園に行って何かしろとは言われてないが、とにかく上手くやってくしかない。

決めたのは俺だ。
後悔しようがどうしようが責任は俺にある。後は、進むだけだ。

そんな俺に、オフクロはにっこりと笑いかけてくれて、少し考えるように顔を俯ける。

「にしても…立帝なんてずいぶんなとこ指名してきたやないの…」

「知ってんの?」

「いいや、名前聞いてただけや。じゃ、みんなで飯でも食いに行こか」

…………あ。

「………って、オフクロ、それそれ」

「あらま」

未だにオフクロが両手で吊してるそれを指さしてみる。するとオフクロはまるで虫でも無意識に潰しちゃったみたいな顔をした。

「………親父―生きてるか―?」

「………ハナバタケ…ミエマス」



…………なんかこれからよりこの人達を残してく方が心配になってきたな………。
特に親父の生命力。






(これはまだ何も知らなかったころの、あたたかいキヲク)







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