[ 天使は穏やかに嗤う






※もしもカナエとタマキの生い立ちが逆だったらパラレルです!微黒タマキ注意!










別に偽りの姿なんかじゃない。

嘘を吐く必要なんかないのだ。
誰かを騙すことも、明るく真っ直ぐな自分であることも全て演技せずに素でやれる。
ただ、自分の中にある闇の部分を消すように隠すだけ。それを嘘や偽りとは言わないだろう。

だって、そう言ってしまえば世界は偽りだらけの世界になってしまうのだから。



―――――

「…はあ」


厄介な事になった。
そう思いながらタマキは長い廊下を歩きながらため息を零した。

アマネの命令で地方から来る警官と入れ替わり成りすまして警察に潜入したのはいいものの、妙に上から関心を持たれてしまい特殊部隊のリーダーにスカウトされてしまったのだ。
ある程度情報を仕入れたら辞職という形で戻るつもりだったのにまさかこんな厄介な事になってしまうとは。

とりあえず有給休暇を使い報告に戻ったが、気が重い。

「アマネ、怒るよな…」

怒るかはわからないが機嫌が悪くなるのは明白だろう。
これは立派な失態だ。
毎回演技をする必要が無い変わりにこうなってしまうのが面倒極まりない。





「――タマキ!」

「わっ」

その時、後ろからいきなり重みが背中にのしかかった。
誰かわかっているので苦笑しながら振り返り、銀色の髪を優しく撫でる。



「レイ、元気にしてたか?」
「うん、タマキこそ大丈夫だったか?可愛い顔してるからって誰かに襲われてたり…」
「してないって」

クスクス笑えばレイはむうと頬を膨らませる。それがまるで小動物みたいに可愛いので、タマキは手を伸ばしてレイと手を繋いだ。「ありがとな、心配してくれて」

レイはふんっと顔を反らしながらも手を離さない。
どうやらなんだかんだでタマキが帰って来て嬉しいみたいだ。

「アマネとオミは?」

「あっち。
仕方ないから俺が一緒にいってやるよ」

本来なら報告は一人でするものとアマネに言われている。
素直に心配だから一緒に行きたいとは言わずに耳を赤くしながら言うレイにタマキは吹き出しながらも頷いた。

「ぷっ…ありがとなレイ」

「…おい、今吹いたろ!ばっ、バカタマキ!」

「あははは」


――――――――…

オミとアマネがいる部屋に入ったタマキとレイはいきなりオミから「よくやったね」とわざとらしく拍手をされ、面食らったように立ち尽くした。そしていつものように感情が読めない表情でアマネが言った言葉にタマキは目を見開く。

「…え…?」

「だからタマキ、君はよくやったんだよ。
実は君がリーダーとしてスカウトされているJ部隊が今度のターゲットなんだ」

丁度良いからそこでスパイとして情報を流し連中を泳がし様子を見る。
それが、新しいアマネから与えられた任務だった――。


「…リーダーとして、か」


隊員ならともかくリーダーとしては結構難しい。しかし一度信用を集めれば周りも緩くなるかもしれないという可能性もある。どちらにしろ難しい任務には変わりない。


「……タマキ」

不安そうな顔のレイにぎゅっとコートの裾を掴まれた。
大丈夫だと握る手に力を込めれば、いつの間にか間近に歩み寄っていたアマネに指先で顎をくいっそちら側にと向かされる。

「やれるだろう?」


背筋に緊張が走る。問いかけているようで違う。
これは―――命令だ。


「………ああ」


頷けばアマネは無言のまま来いと言うように顎を自室の方に向ける。アマネの意図を察しているらしくクスクスと笑うオミを睨みつけているレイに視線を向けて、タマキはゆっくりと手を放した。


「タ……!」

「大丈夫。それより後で荷造り手伝ってくれよ、レイ」

「……うん」


「…行くぞ、タマキ」

「…はいはい」


心配そうに見つめるレイにいたたまれない気分になりながらも、タマキは背を向けてアマネに付いて歩き出す。


大丈夫、今更なんだ。



―――愛も何も無しに抱かれる事なんて、もう慣れているんだから。





――――………

「タマキ、今期から新人が二人来ることになった」

「………二人もですか?」

話を聞けば二人ともまだ若くも優秀らしい。
受け取った資料をめくりながら思考を巡らせる。

上手くリーダーとして部隊に溶け込んで来たが、いつまでもこのままという訳にはいかないとは思っていた。これは良い機会かもしれない。
あわよくば新人のどちらかに裏切り者の疑いをかけられることも出来るだろう。


タマキはうっすらと笑みを浮かべ、声を出さずに唇を動かした。



――さあ、ゲームのはじまりだ。





(これが、ゲームだけの始まりじゃないことには、まだ気づかなかったけれど)

end






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