[ 君は眠り姫







※にょたカゲミツ

それはお姫様」のオミ→カゲとカナタマ

※プラチナネタバレ

(前回と違ってシリアス路線です。1の8話の直前あたりからで前回とちょっと時間軸狂ってますがそこは気にしない方向でお願いします。)






「なんで、」

わからなかった。
とにかく、苦しくてしょうがなかった。
この胸の内を回る醜い感情に支配されそうで、息が詰まる。


「…カゲミツ君」


気が付けば涙を流していた。目の前で立ち尽くすカナエをキッと睨みつけながら両手拳を握りしめて顔を上げる。

こいつは悪くない。
わかっているんだそんな事。

タマキが。カゲミツが初めて焦がれた人物であるタマキが選んだのだ。

例え、告白しようとした日にキスをしている二人をうっかり見てしまい、カナエの方にだけ見つかったとしても、誰も悪くないんだ。


「…おめでとうなんて言わねえからな」

「…うん、ごめ…」

「謝ったら殴る」


そのままカナエに背を向けて走り出した。追いかけて来る気配が無いことに安堵しながら廊下の隅にしゃがみ込んで顔を膝の間に埋める。ぎっと奥歯を噛みしめても涙は止まらなくて、嗚咽が漏れ出してしまった。



――女だと明かしていたら、タマキは自分を見たのだろうか?

違う。それは卑怯だ。そうじゃなくて、もっと、もっと早く気持ちを伝えてたら――







「カゲミツ」


ふと、すぐそばから優しい声がした。ヒカルでもキヨタカでもマスターでも無い、でも聞き慣れたその声にカゲミツはバッと勢い良く顔を上げて目を見開く。

「大丈夫?」

目の前には、少し暗い茶の髪の、本来なら此処にいるはずの無い男が自分と向かい合うようにしゃがんでいた。


「…オ、ミ……?」


掠れた声で、名前を紡ぎ出す。

「そう、…やっぱり嬉しいね、カゲミツにそう呼ばれるのは」

――オミは。ナイツオブラウンドのスパロウであるその男は、何も言わずに目を細めて手袋を脱ぐと素手でカゲミツの頬を伝う涙を拭ってくれる。


ついさっきまで敵として自分と向き合っていた筈の人間なのに、どうしてこんなに優しいのか。
どうしてこんな敵陣のど真ん中にいるのか。
理解できない、わからない。

「………っ」

言いたいこともたくさんあるのに、声を押し殺して泣いた為に喉を痛めたのか上手く声も出ない。

ただ、呆然と止まらぬ涙を流しながらオミを見つめていた。


「…女ってバラしたら、タマキに愛されてたとかずるいこと考えてたんだろ?」

「…!」

涙を拭いながら、オミは嗤った。びくりと肩を震わせて目を見開いたカゲミツの片腕を掴み、顔を寄せる。


「バラさなくて正解だよ。だってそうだろう?あの正義感の強い子だ、カゲミツが女の子なんてわかったらいくら諜報だからって危ないから部隊から離れた方がいいって言われるかもしれないだろう?」

「…て、め…っ」

ひりひりと痛みを訴える喉を抑えてオミを睨みつける。

「そんなタマキが好き?」

息も触れ合う程の距離で笑うオミはそう言うと急にふっと表情を消して、両腕でカゲミツを抱きしめた。


予想外の行動にカゲミツは目を見開く。抵抗する隙が生まれた筈だったのに、出来なかった。

「……オミ…?」


表情が見えない。見えない筈なのに、何故かオミが泣いているように見えてカゲミツは震える手を動かす。

自分でもわからない感情がひっそりと胸の中に咲いたような感覚がして、背筋が震えた。さっきまでタマキを思っていた筈の心が、オミの声で癒されていくような錯覚に、自分の頭を疑ってしまいそうになる。

わからない、止められないのだ。

「俺なら、女でもそばに置く。カゲミツが女だって男だって関係ない………昔から、俺は――…」

手が、恐る恐るオミの背を撫でようとした瞬間だった。


「スパロウ………時間です」

「…わかったよ、フライ」


「……おい、オ…ミ……?!」

唇に何かが触れたと思えば、首の後ろに衝撃が走った。
急速に遠ざかる意識の中、オミへ手を伸ばす。

その手が捕まれた感触と共に、カゲミツは意識を失った。




気を失ったカゲミツを攫う様子も無く廊下に丁寧に横たえるオミにヒサヤは躊躇いがちに声をかけた。


「オミ…連れていかなくても…いいの?」
「まだ、いいさ。機会はいくらでもある、今日は顔を見るだけで済ます事にするよ」
「…………」

ヒサヤは何故か嫌な予感を感じながらもそれを喉奥に押し込むように口をつぐんだ。



――――――――――……



その後、カナエとタマキが逃亡したという報告を受けてもオミは対して反応を見せなかった。

ただ、一つを覗いて。




カゲミツが頭を撃たれて昏睡状態だと。




その時、幹部の前では取り乱さなかったものの自室に入った後のオミの乱心具合は尋常では無かった。
今までオミがこんなに取り乱したのは父と母が死に、セイラが身を投げた時以来の事で、ヒサヤも落ち着けるのに手を焼いた。



警備が緩む深夜のタイミングを見計らい、この病室に連れてくるのも大変だったがあの痛々しいオミを見るよりはマシだとヒサヤは病室の入り口に控えながら小さく息を吐いた。



「カゲミツ」


ゆっくりとベッドに歩み寄ったオミは震える声でカゲミツの手を握って、自分の頬に寄せる。

こうなるかもしれないと、予感はしていた、察していた筈だったのに。

「…早く攫ってれば良かったな…」


そのまま、冷たい細く白い指に口づけを落として目を閉じると切なげに囁く。



「………起きろよ、カゲミツ」


その声に呼応するかのように、ぴくりと瞼が動いた。

――ヒサヤは、目を見開く。
うっすらとカゲミツが目を開けたのだ。
報告では、いつ目が覚めるかもわからないという話だったのに、だ。

目を閉じたままなので気が付いて無いオミに伝えたいのに言葉が出ない。
カゲミツは自分の手を握るオミをしばらくぼんやりと見つめると、淡く笑った。

手はまだ動かせないみたいだが、その唇から小さく、かぼそい声を響かせる。


気づいて目を見開いたオミに、カゲミツは朧な意識のまま、笑いかけた。



( おはよ、オミ )


そしてその後小さな声で、言いたい事があるんだと、オミに囁いた。



end


――――――――――
実はこれ最初は全部オミの妄想っていうオチだったんですが、オミさんに殺されたら嫌なので変更しました(笑)
何を書きたかったんだろう自分……。






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