[ 報われぬまま、廻る |
※BADエンド『アネモネ』後を妄想したオミ→カゲ→タマ そばにいたいんだ。 お前が叶わない想いを抱えながらもただひたすらタマキのそばにいるみたいに。 俺もお前を想う。 いいだろ?カゲミツ――― ーー………… 大学から帰ってすぐさまタマキの部屋に向かったカゲミツだったが、室内から聞こえる軽やかな笑い声にふと足を止めた。そろりとドアの隙間から顔を覗かせれば、ベッドに座るタマキの隣で微笑を浮かべている人物に目を見開く。あれは―― 「今日な、夢を見たんだ」 「へぇ、どんな?」 「カナエが迎えに来るんだ、そうしたらカゲミツがよくわからないけど、いつもみたいに怒鳴るんだ」 「くく…っ、よくわからないって…」 「……なあ、オミ」 「…何?」 「カナエ、いつ迎えにくるんだろう…? カゲミツはちゃんと来てくれるって言ってくれたのに…」 「……来るさ、必ず。リニットは優しいからね」 ――オミだ。 微笑を浮かべながらすっかり光を失ったタマキの頭を撫でているその姿に、カゲミツは安心したようにほっと息を吐いた。 オミはタマキが退院し、カゲミツが大学に通うようになってから毎日のように屋敷に訪れている。カゲミツとも大分打ち解けて、今なら多分友人と言っても良いくらいだろう。 ――あれからすぐに胸に爆弾を入れられ、人材不足だからとJ部隊に入隊という形になったオミは、セイラとタマキの見舞いに通いつつ、何故か何かとカゲミツについて回っていた。 カゲミツ自身、それは別に嫌な事では無かったし元々昔のすれ違いを正したいと思っていたので勇気を出して積極的にオミと接した。 しかし、一緒にいた時間はタマキが入院中の時だけの事だった。 タマキの異変にカゲミツの次に気付いたのがオミだったからか、カゲミツが除隊してタマキに付き添うようになってからは付きまとって来なくなっていた。 その代わり、毎日仕事とセイラの見舞い帰りにカゲミツとタマキの元に通うようにはなったけれど。 「あ、カゲミツ」 「…よう、また来てたんだな」 ふと振り返ったオミと目が合って思わず苦笑を返す。やはり盗み見してたみたいでばつが悪い。早く声をかけてれば良かったとこっそり後悔しながら二人に歩み寄って、タマキに視線を移した。 「ただいま、タマキ」 「おかえり。 …あ、そうだ」 タマキはふわっと笑みを浮かべると、ベッドの横に置いていた小さな小箱から何かを取り出した。 それは長い数珠の付いた銀色のロザリオ。 その数珠の中に数粒見慣れたものを見つけ、オミとカゲミツはぐっと息を詰まらせた。 タマキはそれに気付かずに幸せそうに笑ってそれを見せびらかすように前に突き出した。 「新しいので作ったんだ。金色が無かったから銀にしたんだけど…カナエのやつ気に入るかな」 カナエのロザリオだ。 この前にオミが持ってきてくれた数珠で作ったのだろう。 「……っ」 ズキリとカゲミツの胸に鋭い痛みが走る。まだ、タマキはカナエを忘れていない事なんて分かりきっている事なのに、未だに苦しい。 苦しくて、辛い。 ぐっと身体の影に隠した拳を握りしめようとした瞬間、その手をきゅっと握られ、真横で声がした。 オミだ。 「ああ、きっと気に入るさ。カゲミツもそう思うだろ?」 「…! ……あ、ああ、そうだな」 「良かった」 タマキに見えないようにカゲミツの手を握りながらオミは普段通り緩やかに会話を交わしてゆく。 それでも手はずっと握られたままで、カゲミツはタマキに笑いながら泣きたくなる気持ちを必死に抑え続けた。 (ごめん、オミ。…ありがとう) ――いつか、聞いたことがある。 「オミ」 「何だカゲミツ」 「…お前、なんでそう毎日来るんだよ?」 「タマキは恩人だし、世話になったからね。 けど何より、必要だからさ。…カゲミツにね」 「は?」 訳が分からず首を傾げるカゲミツにオミは、哀しそうに笑った。 「カゲミツが好きなんだ」 だから、そばにいたいんだ。 壊れてしまわないように。 タマキを忘れられなくたっていい、カゲミツが潰れてしまわないように、嫌がられたってそばにいたいんだ。 ――その時のオミの表情は、華族としてのフジナミオミでも今は無いナイツオブラウンドのスパロウでも無かった。ただの、カゲミツと同じ報われない気持ちを抱えた男の顔で。 カゲミツは、言葉を無くしたように何も言えなかった。 そんなオミの気持ちを知りながら、こうして甘えてしまってる自分が情けないとカゲミツは内心で溜め息を吐きながら、笑った。タマキを安心させるように。 そんなカゲミツに苦笑しながら、オミは握る手に力を込めた。 ((報われなくていいなんて嘘だ。それでも、そばにいたい。どうしても)) end? |