「あれは絶対名前のこと好きだって。最近ずっとうちらの教室来てるし、その度に名前のこと見てるし!これは恋の予感ですな!ぐふふふ…」



名前には中島という頭のおかしな友人がいる。類は友を呼ぶというのはまさにこのことだろう。そんな中島の声が静かな図書室で聞こえていた。うるさい。本棚の隙間からふと覗けば、貸し出しカウンターに中島とテツヤがいる。あぁ、二人は図書委員か。わけのわからない中島の力説にテツヤが「そうなんですか?」と首を傾げる。名前の話であることは確かだが、話の内容がわからない。あのバカの名前を聞いただけでどうしても気になってしまう自分に腹が立った。あんなやつ大嫌いなのに、なぜ僕はこんなところで二人の会話を盗み聞きしているんだ。


「そうに決まってんじゃん!女の私が言うんだから間違いない!」

「……」

「山田くんは絶対に名前のことが好きだね!」


おい、ちょっと待て。
山田って誰だ。


「だってデートにまで誘われてたし」

「苗字さんオッケーしたんですか?」

「さぁ?」


ふざけるなデートだと?なんで肝心なところを把握していないんだ中島。ほんとに役に立たないな。

それより山田って誰なんだ











「え?山田?俺のクラスじゃないッスよ。あぁ、そういえば苗字っちに最近話しかけに来るやつの名前は確か山田だったかも…」


練習が始まる前、涼太に山田というやつについて聞いてみた。名前と同じクラスの涼太と敦なら何かわかるかと思ったがどうやらこいつらも役に立たないらしい。敦に至ってはおそらく同じクラスの生徒の名前なんて覚えてないだろうから最初から宛にしてない。


「多分ッスけど、青峰っちと緑間っちと同じクラスっすよそいつ」


ようやく少しまともな情報が聞けた




「山田?あぁ、同じクラスなのだよ」

「太郎のことだろ?」

「山田太郎っていうのか?履歴書の見本とかに書いてそうな名前だな」

「全国の山田太郎に謝るのだよ」


大輝と真太郎によって、「山田」という人物が履歴書の見本とかに書いてそうな名前だということと、サッカー部のキャプテンでそこそこモテていて、名前に気があるということを知った。


「そういや苗字をデートに誘ったとか言ってたな」

「大輝、なぜそれを知っていてそいつを止めなかったんだ」

「何で俺が止めなきゃならねーんだよ」

「名前の分際でたかがデートに誘われたくらいで調子に乗られたら腹が立つだろう、僕が」

「知らねーよ。てか苗字取られたくないだけだろ」

「冗談はやめろ。あんな地球外生命体に嫉妬なんてするか」

「その割りにすごい機嫌悪いッスけどね赤司っち」

「駄犬は黙っていろ」

「駄犬って俺ッスか!?」


少なくとも今の涼太の登場で機嫌が悪くなったのは確かだよ。まったく…。大輝も真太郎も結局山田を止められないんじゃ、役に立たないじゃないか。山田には悪いが名前とデートに行くなど頭が高いんじゃないか?そもそも地球外生命体のくせにデートに誘われる名前こそ頭が高い。


「仕方ないな。ここは僕が直接止めてくるか…」

「ちょっと待て赤司。そんな物騒なもの持ってどこ行くんだよ」

「それは俺の今日のラッキーアイテムのハサミなのだよ」

「止めるって息の根ッスか!?山田の息の根ッスか!?」

「さぁ?どうだろうね?」






「誰か赤司を抑えるのだよ!」

「赤司くん、落ち着いてください」

「ちょ、紫原っち赤司っち捕まえて!」

「えー、今からお菓子食べるし無理〜」

「何してんだ、てめぇ!」

「逆らうやつは山田でも殺す」