ピッ。
自動販売機に小銭を入れてファンタのボタンを押そうとした瞬間、何者かの腕が伸びてきて他のボタンを押すとガゴンッとコーラが落ちてきた。それを私じゃない手が拾う。
「………」
このやろ。隣にいるボタンを押した犯人を睨むと悪びれもなく意地悪く口角を釣り上げた。殴りたい。
「灰崎…表出ろこら」
「んなことで怒んじゃねぇよ」
「私の全財産を貴様よくも」
この何でもドロボー男こと灰崎は私の財布を覗いて中身を確認したあと小馬鹿にしたように笑った。ムカつく。
「可哀想」
「アンタが横取りしなければ私が可哀想な思いをすることはなかったんだよボケ」
「だったら俺のちょっとやるよ」
そう言って灰崎は飲みかけのコーラを私に差し出す。や、俺のって。それ私のお金で買ったやつなんだけど。なにこいつ怖い。灰崎の飲みかけってのが癪だが喉が乾いてるからまぁいいか。
「私はファンタの気分だった」
そんな文句をひとこと告げてコーラを受け取る。飲み干してやろうかと思ったが炭酸がきつくて断念した。
「私コーラあんまり好きじゃないんだよね」
「だったら最初から飲むんじゃねぇよ」
「誰の金だと思ってるんだよ」
ふてぶてしく灰崎にコーラのペットボトルを押し付けたら、私と灰崎の間からひょっこり現れた友達の中島が何やらニヤニヤした表情で見てくる。
「名前が灰崎くんと間接チューしたー!」
は?
そんな間抜けな声が灰崎とかぶる。間接チュー、間接チュー!ヒューヒュー!と小学生レベルの煽り方をしてる中島に少なからず苛立ちを覚えて空っぽになった財布で殴る。灰崎って元はバスケ部の一軍だったしそれこそ黄瀬が入る前まではキセキの世代の中にいたわけで何気にモテるし…ってかただのヤリチンヤンキーだけど灰崎推しの女子は結構多い。そんな彼との間接チューと聞いて私たちの周りにいた女子たちが一斉に私を見た。まじ勘弁して。てか中島ほんと黙れよ。
「私あんまりそういうの気にしないんだけど、灰崎嫌だった?」
「別にお前と間接キスしたところで何とも思わねぇよ」
それもそれで腹が立つけどまあいい。灰崎だし。所詮灰崎だからね。そんな灰崎は「コーラさんきゅーな」と言って去っていく。別にお前に買ったつもりはねーよ、と言いたかったが面倒だったから心の中で思うだけにする。
すると廊下の向こうから見慣れた赤いやつが視界に入ってきて目が合った。一見いつも通りなように見えて、おそらく機嫌が悪い。そしてすかさず私のもとに歩いてくる。なに?何でこっちくんの。
「汚いものは除菌したほうがいい」
「は?」
私の前まで来ていきなり何を言い出すのかと思えば、赤司は手に持っていた霧吹きを私の顔面目掛けてかけてきた。
「ブフッ!!何すんのよ!?」
目に入るわ口に入るわでテンパりながらも赤司が私にぶっかけたそれに「除菌スプレー」と書いてあることを確認した。どこから持ってきたんだよ。お前はドラえもんかと言ってやりたいが、なぜ私に除菌スプレーをぶっかけたのかまず知りたい。私そんなに汚い?毎日お風呂入ってますけど。
「あのさ、私になんか恨みでもあんの?」
「別にない。ただ名前があまりにもムカつくから嫌がらせしてるだけだ」
「私はアンタにムカついてるんだけど」
そう言うと赤司は眉間にシワを寄せて私を見下ろす。何よ私悪いこと何もしてないんだけど?みたいな顔で私も赤司を見る。
「とにかく、その汚い口はさっさと除菌したほうがいい」
そう言って赤司は私に除菌スプレーを押し付けるとそのまま来た道を戻って言った。
「あいつホントに嫌がらせしに来ただけかよ」
酷くない?と隣にいた中島に同意を求めたけど中島は苦笑いしながら「赤司くんって案外不器用だよね」と言った。はぁ?何言ってんの中島。
「名前も鈍いよねー。あれってヤキモチじゃん?灰崎くんと間接チューしたから」
ますます意味がわからない。頭でも打ったの中島。赤司がヤキモチなんてそんなの青峰がテストで100点とるくらいありえないことだよ。
だって赤司は私のこと嫌いだから。