「苗字さんのこと可愛いなって思ってて…その、好きです。よかったら付き合って欲しいな」
人生で告白というものを何度かされたことがあるけど実ったことはない。私だって年頃だし彼氏とかほしいって思ってる。だけど、ヤツはとことん私を地獄に堕としたいらしい。
「君は本当にこの単細胞微生物のことが好きなのか?」
赤司征十郎、降臨。
「出たな、中二病こじらせ坊ちゃん」
「その口、引きちぎるぞ」
どこから現れたのか、いつから居たのか。赤司は私を睨むと近づいてきて私と彼を交互に見る。
「こんな見た目だが、君の思っているような女ではないよ?というか女以前に人間ではない。頭は悪いし自分勝手で人の話は聞かない。寝顔なんてこの世の終わりかってくらい見れたもんじゃないし寝起きは最悪。部屋は汚いし、脱いだ下着もぶん投げたまま。電車で大股開いてヨダレ垂らしながら寝るような奴だぞ?それでも君はこいつが好きだと言えるのか?」
「ちょ…赤司なに言って」
「ご、ごめん苗字さん…やっぱり今のなかったことにして」
「え、ちょっと待っ」
終わった。まただ。
私が告白されると決まって赤司は現れる。すべてはこの男が原因で、私の恋は返事すらさせてくれず呆気なく終わる。いつだってそうだ。赤司は私の邪魔ばかりして、私の幸せをぶち壊しにする。そんなに私が嫌いか、赤司よ。
「最悪」
「僕は事実を言ったまでだよ」
「うざ」
赤司は私が嫌い。だからそんな私が不幸になることを楽しんでる。まさに極悪非道な男。あーやだやだ。何が赤司の言うことは絶対!だよ。ふざけんな。人類よ、目を覚ましてくれ。
「私のこと嫌いならほっといてよ」
「嫌いだからとことん貶めるんじゃないか」
「これ教育委員会に訴えたらいじめになる?」
「出来るものならすればいいさ」
なによその絶対的な自信は。いつか私があんたを貶めてやるから覚えとけよ!
「もう何なのあいつ!むかつくんだけど!」
昼休みが終わって、いつも以上に機嫌が悪い名前ちんが乱暴に教室のドアを開けてズカズカと歩いてくる。こういうとき、とばっちりを受けるのはいつも俺か黄瀬ちんで、この時ばかりは名前ちんと同じクラスになったことを酷く後悔する。
「またいつものパターンっスか?」
自分の席に戻った名前ちんを黄瀬ちんが苦笑いで見る。
「あんまり赤司っちを怒らせないでくださいよー?苗字っちのことになるとすぐ機嫌悪くなるんスから」
名前ちんが機嫌の悪いときは大抵赤ちんも機嫌が悪い。だいたいの原因はお互いのことで、赤ちんが名前ちんをいじめるか、名前ちんが赤ちんの思い通りにならないかでいつも反発する。練習でメニューを倍にされるこっちの身にもなってほしいんだけど。
「あいつ何であんなに性格悪いの?」
「愛ッスよ、愛!愛の鞭って言うじゃないっスか!」
「黄瀬黙ってよ。赤司の愛とか気持ち悪くて吐くんだけど」
俺はふたつめのポテチの袋を開けて思う。名前ちん、嘘つくのうまくなったなぁ…なんて。二人のことなんて俺にはどうでもいいことだけど、正直見ててイライラした。俺は1年の時から名前ちんと同じクラスだったから赤ちんと名前ちんのことはたぶん一番知ってる。昔は仲が良かったことも、二人の仲が悪くなった理由も、赤ちんが名前ちんを嫌いだって言う理由も、名前ちんの本当の気持ちも。
本当は噛み合うはずなのに、噛み合わない。それは二人が不器用なのもそうだけど、誰よりも臆病だからだ。普段あんなに威圧感ハンパない赤ちんだって名前ちんの前ではただの人ってこと。あーめんどくさ。早くこんな冷戦終ればいいのに。
「ホント馬鹿だよね〜赤ちんも、名前ちんも」