「誰に何を言われたのかは知らないけど、名前は安心して僕の隣に居ればいい」


赤司はそう言ってくれたけど、私の欲しいものはそういうことじゃなくて、もっとこうはっきりとしたものが欲しかった。だけど赤司にそれを言い出せなくて早くも数日が経った。相変わらず、紺野さんと赤司は仲が良くて、それがどうしようもなく悔しい。私も赤司と同じクラスだったら、一緒に宿題やったり、クラスの話題ができたのかな。


「なにやってんの、アンタ」

「中島…」

「休み時間毎回いなくなると思ったら赤司君のストーキングかよ」

「人をストーカー呼ばわりはやめてよ」

「立派なストーカーだろ」


赤司の教室を陰から覗き込む私に中島は不審な目を向ける。おい、その顔やめろ。だってこうでもしてないと赤司取られちゃうかもしれないんだよ?そうなったら赤司の隣にいることすらできなくなるかもしれないんだよ?


「ちょっと、なに泣きそうになってんのよ…」

「だってぇ…っ」

「はあ…、名前ちょっとおいで」


中島はため息をついて私の手を引いて歩き出した。どこに行くのかと思えば女子トイレ。人目を避けてくれたのか、中島は気を遣ってくれるよく出来た女だ。愚かな女だけれど。


「私、前に言ったよね?もたもたしてたら赤司君だれかに取られちゃうよって」

「…うん」

「だから、もたもたしてたアンタが悪いよ。紺野さんがどんな子か私は知らないけど、どんなに紺野さんが可愛くても赤司君はアンタのことが好きって言ったんでしょ?なら自信持ちなさいよ」

「でも…」

「でもじゃない。性格はどうであれ顔面偏差値だけならアンタのほうが勝ってんだから。それは親友の私が言うんだから間違いない」

「えっ、待って素直に喜べない…」


顔面偏差値だけって何だよ。だとしたら赤司ってなんで私のこと好きになったの?顔で選ぶ男ではないと思うけど。疑問しかない。


「それで赤司君が心変わりするようなら私が文句言ってやる。だから名前は思ってることちゃんと言ったほうがいいよ。我儘だなんだって思ってるようなら先に言っとくけど、散々アンタの我儘で赤司君振り回してるんだからね。今更迷惑になるとか考えんな!わかったら早く赤司君のとこ行ってこい!!」

「な、中島…っ!」


なんだか泣きそうになった。私いい友達持ったなぁ。なんて干渉に浸る暇もなく中島が前回同様すさまじい勢いで私の背中を蹴り飛ばしたので前のめりの体制のままトイレから弾き飛ばされた。


「……よしっ!」


背中はジンジンと痛むけどおかげで気合いは入った。廊下を走って進む先は赤司の教室。ちゃんと言うんだ。思ってること。私の気持ち。ぜんぶ。





「あ、赤司…いる…?」


赤司の教室まで行くと教室内はなんだかドタバタしていた。折り紙で作られた飾りやら、生徒たちの手に握られたクラッカー。女子たちが赤司様、赤司様とキャッキャしてるのは何?それに黒板に大きく書かれた「赤司君、おめでとう」という文字は一体なんだ。


「赤司なら紺野と中庭に行ったけど」

「えっ…」


まさかの、告白…?

嫌な光景が頭を過る。嘘でしょ。じゃあこの盛大なパーティーみたいな準備は赤司と紺野さんのため?前に赤司がクラス全体仲がいいって言ってたけど、こんなカップル誕生を祝うほどなの?大規模すぎる…。私は急いで来た道を戻り中庭を目指した。







「紺野、いつまで待たせる気だ。もうすぐ昼休みが終わるよ」

「あ…、うん、そうなんだけど…」


中庭にいくとやはり赤司はそこにいた。中央のベンチで隣には紺野さんが座っていた。紺野さんは何か言いにくそうに曖昧に笑う。ああああああ、もうどうしよう…。なんで私、陰に隠れてんの。


「次の授業の準備があるし、僕はもう教室に戻るよ」

「あっ、ちょっと待って…!」


そう言って紺野さんはベンチから立ち上がった赤司の腕を掴んで引き止めた。気づいたら私の足は勝手に走り出していた。


「だ、だめ…っ!」

「苗字さん?」

「名前…?」


赤司の腕を強引に引っ張って紺野さんから切り離す。勢いでこんなことしちゃって私どうするんだろうほんとに。無計画万歳。もう二人して驚いてるし。


「あ…赤司は、私のだから、と、取っちゃだめ!」

「え…?」

「赤司、私のこと好きって、言ったじゃん…っ!なのに紺野さんと付き合うの?やだ、そんなの」

「名前、何言ってるんだ。少し落ち着け」

「落ち着けるわけ、ないじゃん!だって、私のほうが、赤司のこと好き、だもん…!」


ドバーー!!と一気に涙が出てきて赤司が困った顔しながら私を見てる。こんなふうに困らせたいわけじゃないのに。


「もしかして私、苗字さんに勘違いさせちゃったかな?」

「え?」

「紺野、どういうことだ」


紺野さんが苦笑いをしながら言った言葉に私と赤司は首を傾げた。


「先に言っておくけど、私赤司君に告白しようとか考えてないからね?今、ここに呼び出したのはわけがあるんだけど…」

「え?」

「はあ?告白?」


私は今すごく間抜けな顔をしてるんだと思う。紺野さん、赤司に告白する気ない?赤司も状況を理解してないらしく、ポカンと口が開いていた。じゃあ私、勝手に勘違いして勝手に一人で泣いてたってこと?


「ん〜、誤解は早く解きたいんだけど、今言っちゃうとすべて台無しになっちゃうから、とりあえず教室に戻ろう?時間稼ぎもできたし。みんな待ってるよ」


苗字さんも一緒に行こう?まだ少し時間あるでしょ?と優しく笑う紺野さん。あれ?なんか私が想像してた雰囲気とは違う。






『赤司、合格おめでとう!!!』


赤司が教室のドアを開けた瞬間、その声と同時にクラッカーがパァン!と鳴った。私も驚いたけど、それ以上に驚いていたのは赤司だった。私たちの後ろにいた紺野さんはこの状況をすべてを知っているらしい。ニコニコと笑ってる。


「驚いたな、」

「赤司様、おめでとー!」

「赤司の合格祝いサプライズだぞー!」

「合格と言っても推薦だけどね」

「推薦でもあの洛山だろ?すげーって!」

「あぁ、ありがとうみんな」


はやく中に入れ、と赤司はクラスみんなの中心に引っ張られている。私はそんな様子を教室の端で見ていて、隣に立った紺野さんが「ごめんね、」と謝った。


「前に赤司君のことで協力してほしいって頼んだでしょ?その頼みってこれのことだったの。赤司君、京都の高校でしょ?だからもう滅多に会えなくなっちゃうからってクラスの女子が"赤司様の合格祝いサプライズしよう"って言い出して」


うちのクラスは完全に赤司教徒だからさ、なんて冗談まじりに笑っている。クラス内を見ると女子たちの赤司様、赤司様!と黄色い声が。まじで宗教。赤司教の誕生日だよ。私の幼馴染ってとんでもない奴だ。


「それで苗字さんが居た方が赤司君もきっと喜ぶだろうからって思って声かけたんだけど、勘違いさせちゃったよね?私の説明不足だったから、苗字さんずっと不安だったよね?私はクラスでみんなが準備してる間に時間稼ぎのために赤司君を教室から引っ張り出す役目でさっきあそこに居たんだけど…」

「私てっきり紺野さんは赤司のことが好きで、私に協力してほしいのかと思ってた。私が勝手に勘違いしてただけだから紺野さんが謝ることじゃないよ。むしろ私こそ嫌な態度とってごめんね」


気にしてないよ、と紺野さんが優しく笑いかけてくれて、ありがとう、と私も笑顔で返した。紺野さんは私が思ってるような人じゃなかった。すごく優しくていい人。


「それにしても二人って付き合ってなかったの?」

「う、うん…」

「そうだったんだ。赤司君いつも苗字さんの話しかしないからもう付き合ってんのかと思った」

「え、えええっ?」


私の話?なにを話しているんだろうあの男は。ふと教室の中心にいる赤司を見るとふいに目があった。そして「ちょっと、ごめん」とクラスの人たちに告げてこっちに向かってくる。


「げっ、なんか来たんだけど」


なんか散々勘違いしてた挙句、さっき勢いですごいこと言っちゃったからどんな顔していいのかわからない。なのに目の前の男はなんだか楽しそうにニヤニヤしている。


「誤解とやらは、解けたのかい?」

「…うん」

「まあ大体なんの誤解だったかは想像ができるけど。悪かったね、紺野。巻き込んでしまって」

「ううん、大丈夫だよ」

「僕の彼女はとても独占欲が強いらしいから恨まれないように気をつけて」


赤司はそう言って意地悪く笑って私の腕を掴んで自分の隣に引き寄せた。紺野さんは「なんだ〜やっぱり付き合ってたんじゃん」なんて茶化している。


「えっ!?!?」

「ん?どうかした?」

「今!僕の彼女って言った!」


それって私のこと?恐る恐る尋ねると赤司は「他に誰がいるんだ?」というから唖然としてしまう。


「僕は名前のものなんだろう?」

「えっ」

「さっき名前が自分で言った」

「なっ…!」

「なら名前だって僕のものだ」


顔が熱い。なんだこの公開処刑。してやったりみたいな赤司の顔がめちゃくちゃ腹立つ。殴りたい。紺野さんニヤニヤすんのやめてよ。


「ちょっと待って。私いつから赤司の彼女なの?」

「名前が僕の家に泊まりに来て大泣きした日」

「大泣きした話は言うな!えっ?ていうか、私その時点で彼女だったの?」

「は?言っただろう僕は名前が好きだって」

「言ったけど付き合うとかの話はしなかったじゃん!」

「………」

「………」

「…はあ」


なぜため息?私たちの周りでは「赤司がリア充してる!」とか言ってザワザワし始めた。すると赤司は私の腕を引いて教室を出る。おいおい、あと数分で授業始まるよ?どこ行くの赤司さん。


「バカにはハッキリ言わないとわからないようだね」


バカなんだからわかるわけないじゃん。

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